HOME9.中国&アジア |中国沖での沈没・イラン・タンカー「サンチ」からの流出油問題。軽質油と重油の影響と対策の違いを明確に。日中韓の連携で被害最小化を(RIEF) |

中国沖での沈没・イラン・タンカー「サンチ」からの流出油問題。軽質油と重油の影響と対策の違いを明確に。日中韓の連携で被害最小化を(RIEF)

2018-02-08 13:23:33

oil9キャプチャ

 各紙の報道によると、中国沖の東シナ海で1月6日に衝突事故で沈没したイランのタンカー「Sanchi(サンチ)」号から流出した大量の石油汚染の影響が不透明感を増している。流出した石油の大半の軽質原油の「コンデンセート」(11万㌧)と、船の燃料用の重質油(1600㌧)とでは生態系への影響が異なるためだ。

 流出した軽質原油の量は、これまで前例のない規模。英国の国立海洋研究センターは拡散の予想を公表。3月初めに関東沖にも到達すると警戒を呼びかけ、ネット上で悲観論の根拠となっている。ただし同センターは、流出量が不明で正確な被害予測は難しいと説明している。予測には流出量や揮発しやすい軽質原油の性質を考慮する必要がある。http://rief-jp.org/ct12/76506

 tokaraキャプチャ

 すでに事故の影響による油汚染は、1月27日に鹿児島県のトラ列島の海岸で大量の油の塊が打ち上げられているのが見つかったほか、2月1日以降には、奄美大島や周辺の喜界島、徳之島、沖永良部島など広い範囲で確認されている。

 政府は2日に首相官邸の危機管理センターに情報連絡室を設置、関係省庁の会議が開くとともに、第10管区海上保安本部が現地で警戒態勢をとっている。

 ただ、毎日新聞の報道によると、鹿児島大の宇野誠一准教授(環境汚染学)は、「軽質原油は短時間で揮発しやすく、水に溶けて拡散しやすいうえに、重油などに多く含まれる「多環芳香族(たかんほうこうぞく)炭化水素」という毒性の強い化学物質の含有量が少ない、などの点を指摘している。

 topkara2キャプチャ

 同事故の影響については、英国の国立海洋研究センターなどの研究チームが関東や東北の沿岸に汚染が広がるとの予測を公表、国際的に注目を集めている。宇野教授は同センターの見解について、「軽質原油の希釈、拡散を反映していない過大予測ではないか」と疑問視する見解を紹介している。沈没時の火災で多くが燃焼した可能性も考えられるという。

 英国の国立海洋研究センターなどの研究チームが関東や東北の沿岸に汚染が広がるとの予測を公表したが、宇野教授は「軽質原油の希釈、拡散を反映していない過大予測ではないか」と疑問視する。沈没時の火災で多くが燃焼した可能性も考えられるという。

 環境NGOのグリーンピースは、英国のエクセター大学の研究所、サイエンスユニットのポール・ジョンストン博士の見解を紹介している。それによると、「最終的な規模の大きさを予測するのは不可能に近く、それに伴う環境への影響は予測不可能。海洋哺乳類やウミドリは、漂流している油に曝露するリスクが高く、魚も汚染される可能性はある」と指摘したうえで、ネットで話題となっている英国の国立海洋研究センターの予測モデルについて次のように述べている。http://www.greenpeace.org/japan/ja/news/blog/staff/115111sanchi-1271/blog/61118/

 「同センターのシュミレーションに基づき、ロイター通信が作成したインフォグラフは3カ月以内に、日本の広範囲の沿岸に油が到達すると伝えている。重要なポイントは、このモデルは重油やコンデンセートではなく、約6000個の仮想”粒子”がタンカー沈没地点からどのように移動するかを予測したものだという点だ」

 oil4キャプチャ

 「モデルはタンカーからの汚染水がどのように動くかを示すもので、実際の汚染のレベルを予測することはできない。石油は、日本に到達するまでに、分散、蒸発、減成、希釈して薄まることが予想されるが、同モデルではこうした点は考慮に入れられていない」

 奄美大島などに漂着しているのはタンカーの燃料用の重油で、生態系への影響は大きい。ただ流出量は軽質油に比べれば少なく、宇野教授は、海面に浮かぶ油膜は減り、鳥や魚への影響も少ないと予想。「一時的、局所的な生態系への影響がないとは言い切れないが、海から強い油臭がするような状況でもなく、影響は小さいだろう」と指摘している。

 対策に当たっている中国当局は、船や人工衛星で拡散状況を調べる一方で、軽質油を揮発させる作戦を進めているという。日本の第10管区海上保安本部も同様に、スクリューで軽質原油を揮発、拡散させる活動をとっている。

 軽質原油は短時間で揮発しやすく、水に溶けて拡散しやすい。また、重油などに多く含まれる「多環芳香族炭化水素」という毒性の強い化学物質の含有量が少ない、などの違いがある。ただ、それでも硫化水素などの有害物質を含んでいるため、大気汚染を加速させたり、分解の過程で窒素酸化物等の有害物質が発生する可能性もあるという。

 揮発しにくい重油対策と、揮発性の軽質油の影響を混同せず、適格な対策を打つ必要がある。この点で、影響を受ける日韓、事故対策を推進する中国の東アジア3カ国が、冷静に連携し、被害を最小限度に食い止める協調体制を継続することが重要だ。

https://mainichi.jp/articles/20180207/k00/00m/040/066000c