HOME5. 政策関連 |国連生物多様性条約事務局(CBD)、パルマー事務局長が突然辞任。来年10月のCBD・COPでの「Post 2020」決定を前に、アフリカ勢と対立(?)(RIEF) |

国連生物多様性条約事務局(CBD)、パルマー事務局長が突然辞任。来年10月のCBD・COPでの「Post 2020」決定を前に、アフリカ勢と対立(?)(RIEF)

2019-11-05 08:00:56

CBD1キャプチャ

 

   国連の気候変動枠組み条約(FCCC)と並ぶ地球環境保全条約の国連生物多様性条約(CBD)の事務局長が、突然辞任を宣言した。辞任するのは、ルーマニア前環境相の クリスティアナ・パスカ・パルマー(Cristiana Pasça Palmer)氏。本人は健康上の理由とするが、スタッフ等への人種差別行動批判や、アフリカ諸国との対立等も指摘される。CBDは来年10月の会議で、現行の「愛知目標」改定の重大課題を抱え、その各国間調整が遠因との見方もある。

 

 (写真は、演説するパルマーCBD事務局長)

 

 パルマー氏は、2017年以来、CBD事務局長のポストにある。CBDは、現在の条約の改定「Post 2020」を、来年の締約国会議(CBD15)で決定する方向で、事務局長の役割は極めて重要だ。来年3月にはパルマー氏の任期が満了することから、再任かどうかも焦点だった。ところが、同氏は10月初めに、辞任の意向をスタッフに表明した。

 

 上司に当たる国連環境計画(UNEP)事務局長のインガー・アンダーセン(Inger Andersen)氏によると、パルマー氏は11月30日に辞任し、次期事務局長にタンザニアの環境法学者のElizabeth Mrema氏が就任する。アンダーセン氏自身、前任者が過剰海外旅行等で任期半ばで辞任、今年初めに急遽、後任に就いた立場。今度は、CBDの人事修復に追われる形となった。

 

CBD2キャプチャ

 

 パルマー氏は辞任理由について、健康上の理由とだけ説明している。アンダーセン氏もそれ以上のことは述べていない。しかし、英Climate Home News等によると、背景では、CBDの事務局の混乱や、主要アフリカ諸国との対立等が起きていたようだ。

 

 CBD事務局では労働環境の悪化から、多くの職員が病欠や離職が相次いでいた。国連機関を調査する国連内部の国際監督サービス(OIOS)がCBDを調査したレポートでは、2017年のパルマー氏の就任以来、今年半ばまでの間、事務局の5分の1に相当する22人のシニアスタッフや専門家が離職した。うち7人は今年上半期に集中した。

 

 2016年には病欠のスタッフは年間18人だったが、今年最初の5カ月だけで、58人に増え、欠勤日は合計で458日(2016年は年間で172日)に増えている。高い離職率と病欠の増加は、事務局機能を低下させている、とOIOXは指摘している。

 

 加えて、一部のスタッフから、パルマー氏の人種差別行動への批判が出ていた。特にアフリカ系スタッフへの「皮膚の色」への差別という。OIOSのレポートでは2件の事例が指摘された。

 

 彼女自身は来年3月以降も任期延長を目指していたという。ただ、任期延長を巡って、CBD署名国と事務局との調整過程に、彼女が“不適切に”介入したとの批判が出ていた。特に、CBDの「人種差別問題」が8月29日付のナイジェリアの日刊紙で報じられたことで、アフリカ諸国から不満が高まった。

 

パルマ―氏批判を鮮明にしたエジプトのZedan氏
パルマー氏批判を鮮明にしたエジプトのZedan氏

 

 CBDの元事務局長でもあるエジプトのHamdallah Zedan氏は、彼女が任期延長を関係国に迫るなど、CBDの手続きを無視したと批判するEメールを、UNEPのアンダーセン氏に送付、抗議の意思を表明した。Zedan氏の「告発」が、パルマ―氏の人種差別問題へのアフリカ諸国の反発に基づくものであったことは明らかだ。

 

 ただ、パルマー氏は黙して語らないが、愛知目標を引き継ぐ「Post 2020」の戦略案を仕上げるための事前調整は容易ならざる作業であるのも間違いない。同氏は、就任以来、署名各国の担当者と頻繁に会合を重ね、ハードスケジュールの結果、事務局内での不満・不平の調整等や、アフリカ諸国との信頼関係構築が難航していた可能性もある。

 

 気候変動の加速と共に、生物多様性の危機も加速している。100万以上の生物種が絶滅に瀕し、今後10年間にその多くが実際に地球上から消え去るとみられている。危機の克服には、2010年に日本でのCBD・COP10で採択した名古屋議定書に基づき、2011年~2020年までの戦略目標を定めた「愛知目標」を改定・強化する「Post 2020」が最大の課題である。

 

2010年、名古屋で開いたCBD・COP10で議長を務める当時の環境相・松本龍氏
2010年、名古屋で開いたCBD・COP10で議長を務める当時の環境相・松本龍氏

 

  その「Post 2020」の焦点は、生物多様性の豊かな途上国での動植物の保護だ。アフリカ勢とパルマー氏の対立は、豊かな生物多様性資源の開発を促進したい国々と、「愛知目標」に代わるより厳しい生物多様性の保護策を打ち出したい先進国との間の対立が背景にあるともいわれる。

 

 UNEPのアンダーセン氏が、パルマー氏の後任にアフリカ・タンザニアの人物を据えるとしたのも、「アフリカ配慮」が透けて見える。

 

 パルマー氏は、人事問題への介入や事務局の内外からの批判については否定。あくまでも健康上の問題をあげ、家族と過ごす時間を優先したい、と説明している。今回の緊急人事の真相はどこにあるのか。気候変動だけでなく、生物多様性・環境保護をグローバルに推進するのは、容易ではないことだけは確かなようだ。

 

 パルマー氏は、米フレッチャースクールで国際関係論でPhDを取得、開発経済学や国際ビジネスマネジメント、サステナビリティ分野が専門。ハーバート大学JFKスクールと母国ブカレスト大学でそれぞれ修士号も取得している。ハーバード等で教えた後、東欧諸国のNGOや欧州委員会の環境部門等で活躍、15年の気候変動のパリ協定締結時にはルーマニア代表として仕切った。

 

https://www.climatechangenews.com/2019/10/31/un-biodiversity-chief-quit-key-summit-accused-misconduct/

https://www.cbd.int/conferences/post2020