HOME |関電・大飯原発訴訟で大阪地裁、国の許可取り消し命じる。「地震規模想定での規制委判断には看過し難い『過誤』がある」と指摘。「世界一厳しい新規制基準」の恣意性を喝破(RIEF) |

関電・大飯原発訴訟で大阪地裁、国の許可取り消し命じる。「地震規模想定での規制委判断には看過し難い『過誤』がある」と指摘。「世界一厳しい新規制基準」の恣意性を喝破(RIEF)

2020-12-05 18:49:23

ooi001キャプチャ

 

 関西電力大飯原発3、4号機(福井県おおい町)の耐震性について新規制基準に適合するとした原子力規制委員会の判断に、福井県等の住民らが異議を申し立て、原発設置許可の取り消しを求めた訴訟の判決で、大阪地裁(森鍵一裁判長)は4日、許可は違法との判断を示し、国に設置許可の取り消しを命じた。裁判長は「規制委の判断は地震規模の想定で必要な検討をせず、看過しがたい過誤、欠落がある」と指摘した。

 東京電力福島第一原発事故後に策定された新規制基準下で原発の設置許可を取り消す司法判断が示されたのは初めて。国は控訴する方向で、関電も「極めて遺憾であり、到底、承服できない」としており、国と一緒に控訴する方向という。

 

  焦点の大飯3、4号機は現在、定期検査で停止中。検査終了後は判決が確定するまで稼働できる。だが、判決が確定すると、関電はより厳格な耐震設計で工事をやり直し、改めて許可を得るまで稼働できない可能性がある。

 

 大飯原発

関西電力大飯原発。左から1号機~4号機

 

  裁判の主な争点は、関電が算出した耐震設計の目安となる揺れ(基準地震動)の値や、これを基に設置を許可した規制委の判断が妥当かどうか、という点。関電は大飯3、4号機の基準地震動を耐震設計の前提となる最大規模の揺れ(基準地震動)の評価で過去の地震規模の平均値を使って最大加速度856ガルと算定、規制委は適正と評価していた。

 

  これに対して、森鍵裁判長は「算出過程で基になる過去の地震規模の数値には平均値から大きく外れたものなど『ばらつき』があるのに考慮せず、数値の上乗せもしていなかった」と指摘。規制委も上乗せの必要性の要否を何ら検討することなく許可を出しており、「審査すべき点を審査していないので違法」と結論付けた。

 

  裁判長は、特に規制委の判断について、「看過し難い過誤、欠落がある」と指摘した。政府は東電事故後、「世界一厳しい新規制基準で安全性が確保された」として、原発再稼働を進めてきたが、基準を運用する規制委審査の恣意性を指摘された形で、原発行政への不信感が改めて浮き彫りになったといえる。

 

 東京新聞等の報道によると、論点となった大飯原発で想定される地震の揺れの評価については、2016年に規制委委員長代理も務めた地震学の権威の島崎邦彦東大名誉教授が「不確かさを考慮すべきだ」と再考を促していた。同氏の試算では、関電が示した値の2倍近くとなる。この試算に基づくと原子炉建屋には、より厳しい耐震性が求められることになるはずだった。

 

 ところが、当時の規制委は、島崎氏の指摘を受けた再計算の結果について「問題なし」とした。16年7月には島崎氏との面談で「再計算は不適切だった」と一転、非を認めつつ、見直さないと突っぱねた。田中俊一委員長(当時)は記者会見で、「島崎氏の言っていることには根拠がないというところまで、われわれも勉強した」と言い切った。

 

 同紙の報道によると、こうした規制委の審査姿勢に、地震動の計算方法をつくる政府の地震調査委員会内でも疑問視する声が上がっていたという。同紙が情報公開請求で入手した議事録で判明したとしている。16年4月の熊本地震後、複数の計算方法を併用するよう求めていた。にもかかわらず、規制委は地震学者の警鐘を無視した、と指摘している。

 

  地震動の想定は、地震の多い日本において原発の安全性を判断する上での耐震性を評価するための基本的な推計になる。その想定は政治的判断ではなく、科学的な推計に基づく。したがって、今回の地裁判決について、司法当局が現政権の政策を慮って高裁判決で覆して、一件落着とすることは、容易ではないとの見方も出ている。

 

  菅政権は、温暖化対策を重視する姿勢に切り替え、「2050年温室効果ガス排出量実質ゼロ」の目標を掲げている。経産省はその目標実現のために、原発の再稼働加速を進める方針だ。だが、今回の判決で、規制委審査について「看過し難い過誤、欠落がある」と厳しく指摘されたことで、規制委自体の信頼性が大きく低下した。

 

 現行の新規制基準の文言は「世界一厳しく」とも、運用する規制委が科学的判断での独立性を欠き、時の政権の政策に追随しているとすると、再稼働が厳しくなるだけでなく、これまでの新基準適合済みとされた9原発16基自体も、改めて見直しをせざるを得ないだろう。「原発政策」は11年3月の東電福島事故で、すでに破たんした。そのことを直視できない一部の利権にまみれた人々の愚かしさが、議論を長引かせているといえる。

 

 規制委は8日、非公開の会議を開き、判決を受けた今後の対応を話し合ういう。自らの信頼性が問われていることを、しっかり議論してもらいたい。