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東京電力福島第一原発事故後の環境省による除染後、1万3000地点で放射性物質濃度上昇。除染後のモニタリングでの濃度上昇は約5万地点。杜撰な体制、会計検査院が指摘(RIEF)

2021-05-27 23:58:45

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  会計検査院が東京電力福島第一原発事故の除染地域を調べたところ、福島県の11市町村(帰還困難区域を除く除染特別地域)での空間線量が約1万3000地点で除染後の数値が除染前より下回らず、また約5万地点では除染後も事後モニタリングでみると、数値低下がみられなかったことがわかった。検査院は、除染効果の不確かさが大量に観測された要因について、作業から測定までの間隔が長期にわたったり、均一でないという調査体制の不備のほか、除染後に除染を行っていない森林地域等から放射性物質が移転した可能性を示唆している。

 

 (写真は、神社の境内に堆積した枯れ葉などを取り除く除染作業=2012年7月、福島県田村市での除染作業=東京新聞より)

 

 検査院による除染効果の検証作業は、11市町村での2018年度までに測定された約56万地点の記録を調べた。除染前、除染後、その後の事後モニタリングの各段階での放射性物質の数値の変化を調べた。その結果、除染後に汚染濃度が上昇した地点が1万2894地点、除染後もその後のモニタリング時点で濃度が上昇しているのが4万9749地点あった。検査院はいずれについても「除染後による効果の継続は、確認できなかった」と評価している。

 

 除染前と除染後、それに事後モニタリングの測定の間隔は、半年から1年までの間に実施するのが基本。だが地点によって90日未満~730日以上とバラつきがあり、平均245日だった。検査院は、事前測定から事後測定までの測定間隔が短い地点と長い地点では2年にも及ぶといったデータが混在し、平均245日の測定間隔も比較的長い点を問題視。「自然減衰やウエザリングに起因する線量低減効果が相当程度影響している」とした。

 

 「ウエザリング」は、降雨等の自然要因によって放射性物質が移動することに伴い減少する効果をいう。ただ、今回の調査では、測定間隔が長いにもかかわらず、放射性物質が減少せず、増加している地点が約1万3000地点に達している。この場合のウエザリングは、汚染地域周辺の森林の除染が行われて来なかったことから、台風等の風雨の影響で、森林の放射性物質が除染後の地点に移動したとみられる。

 

 また調査では、環境省の除染土壌の保管台帳に誤った記載があるなど、管理の杜撰さも発覚した。たとえば福島市では、2016年に除染土壌を埋設した場所に、住宅が建設される問題が発覚した。福島市以外でも検査院の調べでは、千葉県松戸市、柏市でも保管記録があった場所に、その後、住宅が建設されて、土壌の確認ができなくなっていたという。

 

 検査院のこうした指摘に対して、環境省は、現在は特定復興再生拠点区域で実施している除染では、土壌を削った後、早期に線量を測定するようにしていると説明している。また「気象や測定条件、誤差などで除染後も数値が下がらないことはあり得る。今後も地元の要望等を受け、必要に応じて対応する」ともしている。

 

 しかし「1万3000地点」での数値上昇を「誤差」とは言えないだろう。また除染後に「5万地点」で数値が上昇していることは、ウエザリングの影響か、あるいは除染作業自体が十分ではなかった可能性もある。環境省は、「環境省」を名乗る以上、環境への配慮、責任をしっかりとる必要がある。そうでないと、「環境汚染省」の汚名を着てしまう。

 

 一方、検査院は福島県を除く9都県で保管する指定廃棄物(福島事故で飛散した放射性廃棄物に汚染された焼却灰や稲わら、下水汚泥等の廃棄物)についても調べた。調査に基づく試算の結果、19年度末で約2万7500㌧の保管量のうち、7割超の2万㌧の放射性物質濃度が基準(1kg当たり8000ベクレル超)を下回るとみられることも、わかった。

 

 検査院はこれらの保管廃棄物については、指定を取り消して、廃棄物として処理を進めるよう環境省に要請した。ただ、指定を取り消すには、セシウムの濃度の確認や、安全性の周知等の追加作業が必要になる。環境省は2016年に指定取り消し要件を定めたが、取り消すための確認・調査・周知作業への対応が進んでおらず、「指定しっ放し」の状況になっていることも浮き彫りになった。