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福島の原発事故が、ドイツの脱原発を決定的にした!(大貫 康雄:NOBORDER)

2013-10-07 12:20:13

ドイツの国会


ドイツの国会
ドイツの国会


先日、インターネット番組で駐日ドイツ大使館のクラウス・アウアー(Claus B. Auer)公使に「ドイツの脱原発政策」について話を聞く機会を得た。


アウアー公使によれば、ドイツの脱原発は長年の議論を経た全政党を含む国民的合意であり、代替エネルギー、省エネ政策、地域活性化なども視野に入れた具体的で包括的な政策の重要な一環であるとのことだった。

英語でいえば長期的な「グランド・デザイン」の下で具体策が進められているわけで、アウアー公使が語った要点を記しておく。付記や質問は最低限をカッコ内に記すが、基本的には省略。

●ドイツの脱原発の方針決定は東京電力福島第一原発事故が決定打となった(公使は“原発を棺桶に入れる最後の一押し”と表現)。

●その最終論議をした「エネルギーに関するドイツ倫理委員会」は、メルケル首相が2011年3月中旬に立ちあげた。

委員長は国連環境計画(UNEP)の前事務局長クラウス・テプファー(Klaus Toepfer)元環境大臣。2ヶ月半後の5月末にはドイツの新しいエネルギー政策での脱原発と代替エネルギー推進などの包括的な提言が打ち出された。

●これだけ短期間に具体的、かつ包括的な報告が打ち出されたのは、すでに長年の間、全部の市町村でいろいろな議論が闘わされてきたからだ。この過程で(環境保全、特に脱原発というかつてない政策を掲げる)緑の党が生まれて勢力を拡大した。

原発推進だった保守のキリスト教民主同盟(CDU)も脱原発に方針転換。脱原発への全政党を含む国民的合意ができていた(緑の党は80年結成、地方議会進出を始める。内外で原発を推進した大企業ジーメンスも巨額の違約金を支払うなどして脱原発に方向転換。現在は北海で大規模風力発電を進めている)。

●「エネルギーに関するドイツ倫理委員会」の議論は全面公開された。少しでも隠しているとの印象を与えた場合、国民が納得しないからだ。すでに脱原発の方向では全員一致しており、議論は“いつ”“何を”具体的に“どう”進めるかだった。

●(「原発関連を担当した元上級公務員が口をそろえて原発の危険性や非経済性について証言したのに驚いたが」との質問にアウアー公使は日本語で“天下り”のことについての質問かと笑いながら背景を語った)

日本だけでなくドイツでもかつては産業界、研究者、官僚たちとの間に緊密で心地よい関係が見られた。原発産業はそれ自体が他の産業と比べて遥かに閉鎖的で異質な産業だった。政財官界関係者の間は互いに快適なものだった。しかし、それも長年の議論の過程で問題視され、密接な関係でなくなっていった。

 

(近年のドイツ脱原発政策の主な進展は以下の通り。

*2001年:連立政権と4大電力会社が2005年7月以降の再処理を禁止

*2002年:原発の段階的廃止法(原発敷地内での放射性廃棄物中間貯蔵を義務化

●日本では“メガソーラ”など、とにかく企業による大規模発電が報じられているが、ドイツでは地方自治体、個人、共同組合などが参加しやすい制度になっている。電力会社には、規模の大小にかかわらず、いかなる事業者の電力でも購入を義務付けしているからだ。もっとも、経費が増える分、電力会社は料金に上乗せが認められ、経費などのデータは公開されている。

●2000年から2010年に再生可能エネルギー関連雇用はドイツ全土で10万人から30万人に増加。

電力生産は金額で50億ユーロから400億ユーロにと8倍に増加。また量では5倍に増えている。

●再生可能エネルギー発電で最も多いのはバイオガスによる発電で全体の3分の1を占める。

太陽光発電は大いに普及し、政府の予算額を上回るまでになっている。バイオガスは暖房にも使われている。今後、さらに増加が見込まれる(日本では“ドイツの太陽光推進政策は失敗した”などの報道がなされているが、むしろ成功しすぎて政府は補助金を削減するまでになっている)。

●代替エネルギー発電が増えるとともに問題となっているのが電力料金の値上がり。輸出企業からは高い電力料金のため国際競争力が低下するとして、企業向け料金の引き下げなどの要求が出ている。

●ドイツの代替エネルギー推進は、省エネルギー政策を伴っている。住宅などは100年以上の使用可能な作りになっており、2重や3重の窓ガラスや冬の寒気や夏の熱気の遮断効果のある建築が義務付けられている。一定基準を満たす建築には政府がその分補助金が出る(日本の住宅は30年前後使用を基準にしている)。

●今後の課題は原発の安全な解体・廃炉と使用済み核燃料と大量の放射性廃棄物の安全な長期間貯蔵処分。この二つの課題をどう安全に進めるかだ。経費も天文学的なものになり、安全な貯蔵処分場も方法も見つかっていない。

アウアー氏はこれまでのドイツの経験を踏まえ、“原発は危険で、かつ最終的に最も高くつく”と指摘している。

 

http://no-border.asia/archives/15206