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英国のヒンクリー・ポイントC原発への英政府の高額補助金問題、オーストリアとルクセンブルクが欧州司法裁判所に控訴。日立の原発事業への影響の可能性も(RIEF)

2018-09-19 16:08:22

Hincley POint Cキャプチャ

 

  オーストリアとルクセンブルグは、英国のヒンクリー・ポイントC原発建設に英政府が支援する政府補助金の取り消し訴訟で、7月に出た欧州司法裁判所の一審の敗訴判決を不服として控訴を決めた。同訴訟の行末は、別途、日立製作所が英国で建設を目指す原発計画にも影響を及ぼす可能性がある。

 

 ヒンクリー・プロジェクトは、英南西部サマセット州ヒンクリーポイントで、欧州加圧水型(EPR)原発を新設する計画。新設原発としては1995年のサイズウェル原発の稼働以来、約20年ぶり。しかしEPR型の原発は、東京電力福島第一原発事故を受けて、安全対策を強化したことで、総事業費が180億ポンド(約2兆5000億円)に膨らんだ。

 

 コスト増による事業主体の仏EDFの採算悪化をカバーするため、デビッド・キャメロン前英首相は、中国の原子力企業の国有企業である中国広核集団(CGNPC)から3分の1の出資を取り付けるとともに、政府支援の補助金170億ポンド(約2兆5000億円)を提供することを決めた。

 

 EUでは政府補助金について、各国間の競争力阻害にならないように限定している。このため、英国の政府補助金に対してはEU各国から異論が出たが、欧州委員会は2014年、EUの原子力政策は欧州共同体条約ではなく、ユーラトム(欧州原子力共同体)条約に基づき、同条約には政府補助金の制限はないことから、「英国補助金に問題なし」としの承認を与えた。

 

 これに対して、明確な脱原発政策をとるオーストリアは15年、同原発への政府補助金を認める欧州委員会の判断は誤りだとして、欧州司法裁判所に提訴した。ただ、今年7月に出た同裁判所の判決では、オーストリアの訴えは退けられた。そこで、オーストリアの動きが注目去れていたが、同国は同じくEU域内で脱原発政策を取るルクセンブルクの協力を得て、控訴することを決めた。

 

  オーストリアの環境大臣のElisabeth Köstinger氏は「原発はもはや将来の社会に必要な技術ではない。にもかかわらず、司法裁判所の第一審判決では、多くの重要なことが考慮されなかった。控訴審でわれわれが勝訴すると確信している。原発の新規建設に膨大な補助金を投じることは『間違ったシグナル』を社会に与える」と断固阻止の構えを崩していない。

 

 問題が混迷するのは、欧州委員会が「合法」の根拠とした ユーラトム条約から、英国はBrexitによって離脱する点にある。「非EU」となる英国には同条約の規定は適用されなくなる。その結果、政府補助金で支えられた「安い電力(実際は1MWh当たり92.50ポンドと、補助金を加えても小売価格は高くなるが)」を供給することで、英国とEUの競争条件が阻害されるとの新たな論点が出てくる。

 さらに、英国で進む他の原発計画にも影響する可能性がある。最大の懸念は、日立製作所が参加するアングルシー島での原発建設計画への影響だ。同原発は2012年に、日立が現地の事業主体だった英原発子会社ホライズン・ニュークリア・パワーを買収したことで、「日立のビジネス」の一つだ。ただ、ヒンクリーと同様、コスト増で事業の採算性が微妙になっている。日立等の事業主体とすれば、ヒンクリー同様に、英政府の追加支援を期待する。だが、仮にヒンクリー控訴審で判決が覆ると、日立の事業の全面見直しも視野に入ってくる。

 

https://curia.europa.eu/jcms/upload/docs/application/pdf/2018-07/cp180104en.pdf