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ジョン・ラギー氏死去。「国連のビジネスと人権に関する指導原則」や「グローバルコンパクト」制定に尽力。企業の人権課題に正面から取り組む。「ハウツーESG」と一線画す(RIEF)

2021-09-21 00:44:54

Jonlaggieキャプチャ

 

   「国連のビジネスと人権に関する指導原則( UN Guiding Principles on Business and Human Rights :UNGPs:通称、ラギー原則)の制定を主導するなど、企業活動に伴う人権対応に尽力してきた米国際政治学者のジョン・ラギー(John Gerard Ruggie)氏が16日に死去した。76歳だった。

 

 ラギー氏はオーストラリア・グラーツで生まれ、1956年にカナダに移住している。その後、カリフォルニア大学バークレー校で博士号、カリフォルニア大学サンディエゴ校教授、コロンビア大学教授を経て、ハーバード大学ケネディ行政大学院教授を務めていた。

 

 学問的には第二次大戦後の国際経済秩序の分析に、専門家集団による国際ネットワークの果たす役割を意味する「認識共同体(epistemic community)」を提唱するなど、アカデミズムでも多くの実績をあげた。同時に、自らの提案の実践を進めるため、積極的に国連や非営利活動等の場に自ら参加し、広く企業統治の健全性を進める活動を展開した。

 

 その一つが、1997年~2001年にかけて、コフィー・アナン国連事務総長のアドバイザー(戦略計画担当事務次長)として取り組んだ「グローバル・コンパクト」の制定活動だ。企業に対し人権・労働基準・環境の分野における9原則への支持と実践を求める国際ルール策定(現在は、「腐敗防止」を含めて10原則)に尽力した。

 

 2005年には、再びアナン事務総長により「ビジネスと人権の特別代表」に指名され、「ビジネスと人権の指導原則(UNGPs)」の制定作業に携わった。同原則はラギー氏のリーダーシップを評価して「ラギー原則」「ラギーフレームワーク」等とも呼ばれる。企業の倫理的行動を規定する「グローバルソフトロー」として位置付けられ、多くの国が同原則に基づいて国内の会社法等に規定を盛り込んでいる。

 

 ラギー氏の真骨頂は、こうしたルール作りに貢献しただけではない。自らそのルールを企業が実践することを支援する活動にも取り組んできたことだ。人権分野での企業の取り組みを支援する非営利団体の「The Shift Project」に加わったほか、ESGデータ供給企業のArabesque Groupやグローバル企業のUnileverのサステナビリティアドバイザリー協議会等にも加わり、具体的な企業活動での人権課題の盛り込みに助言を重ねてきた。

 

 ラギー氏は今年6月、オランダのハーグ地方裁判所が5月に、エネルギー会社ロイヤルダッチシェルに対し、温室効果ガス排出量を2030年までに45%(2019年比)削減することを命じる判決を下したことに触れ、「オランダ裁判所の判決は、ラギー原則の根幹の部分を法的に解釈したものだ」と称賛する見解を示している。

 

 ESGを喧伝する学者はわが国にも増えた。企業でも「ESG経営」を標榜する向きも少なくない。「ハウツーESG論」も盛んだ。だが、ラギー氏のように、グローバル企業が抱える人権課題の「大きさ」と「深さ」を見抜き、それに対する説明責任と、透明化を正面から求める視点の厳しさは、ますます高まっている。だが、そのこと自体に、気付いていない経営者も日本ではまだ少なくないようだ。

 

 「ESGがわかったつもり」の企業経営者は、ラギー氏追悼の機会として、改めてラギー原則を読み直してみてはどうか。

 

https://www.unic.or.jp/texts_audiovisual/resolutions_reports/hr_council/ga_regular_session/3404/

https://www.responsible-investor.com/articles/the-human-rights-angle-was-crucial-to-the-dutch-court-ruling-against-shell