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英国アクチャリー協会(IFoA)、気候変動リスクが保険や年金などの数理業務の「重要なリスク」と指摘した「リスク警告」を発出(RIEF)

2017-05-18 00:03:18

IFoAキャプチャ

 

  保険や年金などの数理業務の専門家であるアクチャリーの英国の団体「The Institute and Faculty of Actuaries (IFoA)」が気候変動に伴うマテリアルリスク(重要なリスク)に注意を払うよう、加盟メンバー向けに「リスク警報(Risk Alert)」を発した。気候変動の影響が保険等の数理計算に無視できない影響を及ぼすことを踏まえての措置だ。

 

  IFoAは英国のアクチャリー団体で、会員数は2万9000人。うち46%は海外で活動しており、国際団体でもある。公表された「Risk Alert」は「気候変動に関するリスクが、アクチャリーが担う業務に影響を深めていることを考慮することの責任を強調し、気候変動の重要性リスクに注意を喚起するよう」求めている。

 

 そのうえで、アクチャリーが担う数理業務において、「その評価や数理計算に際して、気候変動の影響を、どう考慮に入れているかを理解し、明確に顧客に伝えなければならない」と指摘している。保険業界は気候変動に伴う自然災害の増加等で保険金の支払い増などが顕在化している。

 

 このため、気候変動への対応を強調するだけではなく、実際にアクチャリーの数理計算の業務として、気候変動リスクを測定し、保険計算の中に組み込む必要性が増している。

 

  IFoA代表のColin Wilson氏は「環境問題、特に気候変動問題が、アクチャリーが対応すべき金融リスクの領域になっていることへの業界としての合意は、年々、明確になっている」と述べている。IFoAの「Risk Alert」は、会員に対する自主的なガイダンスの形で発せられる。

 

IFoA2キャプチャ

 

 「Alert」は、気候変動に伴い、アクチャリーが重視すべき3つのリスク領域を示している。①物理リスク②移行リスク③負債リスク、である。これらの気候変動関連リスクは、従来は非金融リスクとして考えられていたが、現在は金融リスクそのものとしてとらえられている。

 

 ①の物理リスクは、気候変動による自然災害で不動産の損傷が増加するほか、資源利用可能性が低下したり、サプライチェーンの寸断で部品等の供給が止まるリスクの増加などを指す。アクチャリーはこうした物理リスクを保険商品の計算において考慮しなければならない。

 

 次の移行リスクは、政府の気候変動対策の緩和策や適応策の中身とそのスピードにもよるが、保険会社や年金基金、その他の機関投資家等に対して、多様なレベルの金融的リスク、評判リスクを課すことになる。化石燃料資産の評価が低下する「座礁資産(Stranded Assets」などが典型だ。こうした影響を受ける企業の市場価値の評価を適正化することがアクチャリーに求められる。

 

 3つ目の負債リスクは、保険や投資資産の種類や範囲によるが、もし第三者が気候変動による影響や損失を受け、それに伴う補償を求める際に、負債リスクが顕在化する。典型的な例としては、気候変動の影響で海面上昇が起きる太平洋諸島の事例が該当する。


 IFoAの今回の「Alert」は金融安定理事会(FSB)の気候関連財務情報開示作業部会(TCFD)が昨年末に勧告した報告の方向性と歩調を合わせたものになっており、今月22日にはTCFDの勧告を踏まえたWebinarも予定している。

 

 日本にも公益社団法人・日本アクチャリー会があり、同会のメンバーには、IFoAのメンバーになっている人も多い。日本のアクチャリーの気候変動対応も期待したい。

 

https://www.actuaries.org.uk/news-and-insights/news/risk-alert-climate-related-risks