HOME |欧州委員会、新型コロナウイルス感染からの復興計画案を公表。総額7500億ユーロ(約89兆円)の基金創設。財源はEU債発行。対象事業にサステナブルファイナンスのタクソノミー適用(RIEF) |

欧州委員会、新型コロナウイルス感染からの復興計画案を公表。総額7500億ユーロ(約89兆円)の基金創設。財源はEU債発行。対象事業にサステナブルファイナンスのタクソノミー適用(RIEF)

2020-05-28 16:50:08

EU001キャプチャ

 

  EUの欧州委員会は27日、新型コロナウイルス感染の影響で低迷する欧州経済の復興計画案を加盟各国に提案した。計画案の柱は、総額7500億ユーロ(約89兆円)の基金の創設で、基金の財源はEU自体が債券を発行して調達する初の試みとなる。フォンデアライエン欧州委員長は「復興計画は、コロナからの復興支援だけでなく、『欧州グリーンディール(EGD)』やデジタル化を進める我々の未来への投資でもある」と強調した。「グリーンリカバリー」に資するため、復興の対象事業は、サステナブルファイナンス行動計画で整備するタクソノミーへの適合を求めるとしている。

 

 欧州委員会の提案は「欧州のモーメント:次の世代への修復と準備の好機(Europe’s moment: Repair and prepare for the next generation)」と題している。

 

 柱となる7500億ユーロの復興基金設立は、18日にメルケル独首相とマクロン仏大統領が5000億ユーロ規模で共同提案した内容を踏襲し、規模を拡大した形。これまでに加盟国で合意している支援策と合計すると、総額1.85兆ユーロ(約220兆円)の規模になる。ただ、基金設立にはEU財政健全化を求める国が難色を示しており、各国間の調整が残っている。https://rief-jp.org/ct4/102603?ctid=71

 

復興計画案を説明するフォンデアライエン欧州委員長
欧州議会で、復興計画案を説明するフォンデアライエン欧州委員長

 

 基金のうちEU債で調達する5000億ユーロは、コロナ被害が大きいイタリア、スペイン、フランス等に対する復興補助金として配分する。残りの2500億ユーロはEU予算をベースとした融資枠になる。これらの補助金、融資の両方とも、サステナブルファイナンスのタクソノミーに照らした「グリーン性」のチェックを求める。

 

 タクソノミーへの適合を条件にすることで、同条件に盛り込まれている「Do no harm」原則で除外される石炭火力発電等の化石燃料関連事業や原子力発電関連の事業は、復興事業として認められないことになる。復興事業が同時にサステナブル事業の増大につながることに対して、サステナブルファイナンスを推進する年金基金や資産運用機関は歓迎を示している。

 

 コロナ感染拡大で欧州全体が非常宣言状態に陥った期間に、各国政府が経営危機に陥った大企業や中小企業に対して、政府補助の形で緊急支援を発動したが、それらの資金援助にはグリーン性への配慮は盛り込まれなかった。緊急政府支援金の52%はドイツが配分したとされる。財源豊富な国による政府支援とそうではない国の支援との不均衡の結果、欧州経済内での不均衡が拡大したとの指摘もある。復興支援金はこうした不均衡是正も目指すとしている。

 

復興計画に盛り込まれた主な資金項目
復興計画に盛り込まれた主な資金項目

 

 復興計画がEUで承認されるには、加盟国全体の承認が必要。現在の予定では、6月11日のユーロ圏財務相会議で大筋の合意を得て、同18日のEU首脳会議での承認というスケジュールが想定されている。だが、加盟国内で財政健全化を重視するオランダ、オーストリア、デンマーク、スウェーデンの「倹約4カ国(Frugal Four)」は、EU債の発行は債務の共通化やEU予算につながると難色を示しているほか、補助金より返済を前提にする融資に限定するべきとの姿勢を示している。

 

 ただ、財政健全政策を最重視するドイツが、「欧州の復興と連帯」を強調して復興基金案を推奨する立場をとっていることから、「4カ国」の反対も条件闘争とみられる。コロナ対応で緊急に提案されたEU債の発行だが、サステナブルファイナンスを推進するうえで、「グリーンEU債」「サステナビリティEU債」等の発行も期待され、EUのESG債市場の拡大につながる可能性もある。

 

 欧州委員会の予測では、ユーロ圏の実質成長率は20年に前年比7.7%減と大きく落ち込むが、21年は6.3%増に転じるとみている。

https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/ip_20_940

https://ec.europa.eu/info/sites/info/files/factsheet_1_v29.pdf