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日本公認会計士協会会長、ESG等の非財務情報開示に「公認会計士による保証の重要性」を言及。IFRSのサステナブル情報開示の共通化案を想定(各紙)

2020-12-10 11:57:25

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 各紙の報道によると、日本公認会計士協会の手塚正彦会長は、ESG等の非財務情報の開示基準を財務情報に統合する動きが広がってきたことに対して、「(統合報告書など)企業の情報開示に対する公認会計士による保証の重要性が増す」と述べたという。会計士は現在、財務報告書(有価証券報告書)に対して法定監査保証を付与しているが、同会長はこれを非財務情報の監査にも広げる考えを示したとみられる。

 

 日本経済新聞が報じた。手塚会長の発言は、国際会計基準(IFRS)をつくる国際会計基準審議会(IASB)の母体、IFRS財団が、TCFD提言を元にして、気候財務情報等の非財務情報開示のための基準の共通化を目指して、サステナブル基準審議会(SSB)設立案を提案したことに関連したもの。同氏は、IFRS財団のSSB構想を「基準統合のため新組織をつくるという提案を基本的に支持する」としたうえで、「会計士が内容を確認して証明する『保証』を意識した、情報開示ルールを忘れないでほしい」と指摘した。

 

手塚会長、日本会計士協会サイトから

手塚正彦会長、日本会計士協会のサイトから

 

 同氏の発言は、財務報告書だけでなく、気候変動情報等の非財務情報開示についても会計士の法定監査保証の対象にする考えを示したといえる。同氏は「財務情報の重要性が増して、仮に有価証券報告書にも反映されるようになるとすれば、監査人の研修が必要になる。会計士向けに任意の研修はあるが、今後は監査に携わる人向けに必須の研修を開発しなければならない」と、実務的な対応にまで踏み込んでいる。

 

 監査法人等は、現在も企業が発行する環境報告書やサステナビリティ報告書、統合報告書等に「第三者意見」等の形で保証を付与している。ただ、これらの「保証」は財務報告書への法定監査によりものではなく、国際会計士連盟の保証業務基準等に準拠した任意の意見でもある。仮に内容に不備が見つかっても監査法人が責任を問われることはない。

 

 今回の手塚氏の発言はこうした保証とは異なり、財務報告と同様の法的監査にも対応することも視野に入れた監査保証を想定しているとみられる。ただ、同氏も認めているように、監査法人や会計士に、ESGの専門知識や分析能力のある人は限られている。また仮にESG専門家を養成したり、外部から雇ったとしても、ESGそのものの評価は不確実性を伴う非財務性がベースなので、第三者が財務報告のような法定監査並みの保証を付与することは、会計士側が負うリスクは高すぎるとの見方もある。

 

 一方で、監査法人や会計士にとって、非財務情報の監査保証が義務化あるいは、必須化すれば、新たな市場でもある。これまでも監査法人は非財務情報市場を会計ビジネスに転じる対応を重ね、サステナビリティ報告書等への保証業務を展開してきた。しかし、元々、専門家が少ないうえに、開示情報の中身の評価ではなく、開示の書式や準拠基準の点検等にとどまるケースが多いなど、企業にも利用者にも、有用性に疑問が残っているとされる。

 

 同氏はIFRS財団のSSB設立案に基本的には賛成を示しつつ、「IFRS財団の議論では『誰のためのどんな情報を開示するのか』という点が不足している。私たちとしては具体論にアジアや日本の声がきちんと反映されるよう、基準づくりの新組織に地域的なダイバーシティーへの配慮を求めたい」とも述べたという。

 

 この発言は、化石燃料依存の発電が多い日本やアジアへの配慮を意識したものとみられる。だが、温暖化問題はグローバル課題であり、化石燃料に依存している地域こそ、脱炭素の加速が求められるという世界の要請にそぐわない発言といわざるを得ない。まさにESGを理解していないことを示すような発言であり、さらには財務の会計基準の国際化の流れにも反するように聞こえる。

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20201210&ng=DGKKZO67175020Z01C20A2DTA000

https://jicpa.or.jp/about/