HOME4.市場・運用 |化石燃料の“クリーン化”で期待されるCCS技術、現状は機能不十分。シェブロンの西オーストラリア州の天然ガス事業。操業以来の5年間、ほとんどCO2を貯留できず。技術リスクを露呈(RIEF) |

化石燃料の“クリーン化”で期待されるCCS技術、現状は機能不十分。シェブロンの西オーストラリア州の天然ガス事業。操業以来の5年間、ほとんどCO2を貯留できず。技術リスクを露呈(RIEF)

2021-01-25 08:46:17

Chevron001キャプチャ

 オーストラリアの西オーストラリア州で開発が進むゴーゴン(Gorgon)天然ガス(LNG)プロジェクトで、開発の条件として設置されたカーボン回収貯留(CCS)システムが計画通りには機能せず、採掘中に発生するCO2の大半が大気中に大量に放出されていることがわかった。CCSは石炭、ガスの化石燃料を“クリーン化”するトランジション(移行)技術の代表として喧伝されるが、イノベーションリスクを克服できていないことを示す形だ。

 (写真は、十分に機能できないシェブロンのCCS設備。一見、壮大なシステムに見えるが・・)

 ゴーゴン・プロジェクトは、同州のバロー島沖の海底を、米メジャーのシェブロンが中心とし、シェル、エクソンモービルとも連携し開発を進めている。 埋蔵量は35.3兆立方フィートで、今後60年間の開発が可能と見込まれている。すでに2016年に生産・輸出を開始、東京ガス、大阪ガス、中部電力(JERA)、JX日鉱日石エネルギー等の日本企業のほか、中国、韓国など東アジア諸国に供給され、一部はオーストラリア国内でも使用されている。

ゴルゴン・プロジェクトの現場
ゴーゴン・プロジェクトの現場

 オーストラリア政府は、同事業開始に際して、開発操業中に発生するCO2の約80%を、CCS技術で回収する条件をつけた。シェブロン等は、CCSの設備事業費として31億豪㌦を計上、豪政府は6000万豪㌦を補助金で支援した。当初の計画では、天然ガス採掘等の操業時に発生するCO2を年間400万㌧回収し、約2km下の地中に貯留するとした。システムはバロー島に設置された。CCSとしては世界最大規模とされる。

 しかし、現地の独立系メディアの「BoilingCold 」の調査報道によると、設置されたCCSシステムは操業開始翌年の17年12月に、システムの技術的なトラブルによって停止。回収したCO2の地中貯留ができないトラブルが発生した。CO2を地中に送るパイプの目詰まりが発生し、何度も中断を余儀なくされた。

 そのため、回収したCO2は結局、大気中に放出せざるを得なかったという。その後、19年8月にようやく目詰まりトラブルをある程度解消したが、それでも、主要なシステムは十分に働かない状態が続いた。そこで、現地の西オーストラリア州政府はCO2の貯留量を抑制する緩和策を認めたという。しかし、同メディアは、変更後の実際の貯留量についての情報は開示されていないと指摘している。


 こうしたCCSの機能不全により、スタート後の17年末までのトラブルで年間550万~780万㌧のCO2が貯留できずに大気中に放出されたとみられるほか、19年8月のシステム稼働後の不調でも年700万㌧分が追加排出されたとみられている。膨大なCCSシステムは「形」だけで、ほとんど役に立たないことを露呈したわけだ。

 西オーストラリア州の自然保護協議会の代表、Piers Verstegen氏は「シェブロンはCCSシステムが機能することが確認されるまで、ガス開発プラント全体を停止すべきだ。同事業は立ち上がりからトラブル続きだ」と批判。石炭に代わって、CCSを併用した天然ガス開発を推進しているモリソン政権に再考を促している。

 問題を重視した自然保護協議会は昨年、環境保護をチェックする組織である「Appeal Convenor」に提訴し、シェブロンに州政府が与えている天然ガス開発許可を再検討するよう要請した。その理由として、CCS設備の操業とゴーゴンプロジェクト全体のCO2排出量の情報開示が不十分である、CO2排出量の抑制が不十分、事業レビューを20年間行わないとする条件の見直し等をあげた。「Convenor」は、このうち、20年のレビュー無しの期間を10年に短縮したものの、要請全体は却下されたという。

 独立系シンクタンクAustralia Instituteの試算では、CCSが機能しないことでゴーゴンプロジェクトから排出されるCO2量は、オーストラリア全体の年間のCO2排出量増加分の半分に相当するという。同InstituteのMark Ogge氏は、「連邦政府はシェブロンにCCS補助金6000万㌦を供給したが、機能しなくても罰金は課していない。西オーストラリア州政府も回収目標の先送りを認め、CO2排出増を許している。両方とも、納税者の資金を使いながら、CCSの不具合の責任を負っていない」と批判している。

 ゴーゴンプロジェクトの事例は、日本にとっても無視できない。菅政権の「2050年ネットゼロ」目標を踏まえ、経済産業省は昨年末に「グリーン成長戦略」を公表し、CCSを活用して石炭火力や天然ガス火力を継続する方針を打ち出している。さらに、トランジションファイナンスとしてCCS事業への民間金融機関の投融資を促進する構えだ。

 だが、CCSは依然、コスト高であるほか、今回オーストラリアで発生したような設備の技術的な課題は十分に解決されていない。さらに、いったん、CCSを資金使途先とする「トランジションファイナンス」として債券等を投資家に販売した後に、今回のような問題が生じると、投資家はESG投資によって「環境リスク」を負ってしまうことになる。

 ゴーゴンプロジェクトで生産したLNGがすでに日本に輸入されている点も見逃せない。日本のガス会社やガスを利用する消費者も、結果的に、シェブロンの「トランジション・ウオッシュ(移行もどき)」に加担させられている形になっている。

https://www.boilingcold.com.au/chevrons-gorgon-co2-emissions-to-rise-sand-clogs/

https://australia.chevron.com/our-businesses/gorgon-project