金融庁の「サステナブルファイナンス有識者会議」、委員から気候関連情報の有価証券報告書での開示提案。「金融機関特有の情報開示」の制度化の提案も（RIEF）
2021-02-11 23:09:03
金融庁は10日、気候変動等に対応する持続可能な経済成長に向けたファイナンスのあり方を議論する「サステナブルファイナンス有識者会議」の第二回目の会議（オンライン）を開いた。会議で金融庁は、当面の最重要ターゲットを、「2050年のカーボンニュートラル」に置くと明言した。会議では、気候関連情報を企業の有価証券報告書で開示を充実させるべきとの意見や、「金融機関に特有の情報開示」として、投資ファンドやポートフォリオに占める炭素濃度割合や、グリーンタクソノミーへの合致度等の開示を求める意見等が出た。
気候関連情報の有報での開示を求めたのは、ニッセイアセットマネジメントの井口譲二統括部長。同氏は「サステナブルファイナンスにおける企業報告のあり方」として報告した。その中で、気候変動の影響はグローバルに通用し、一定の比較可能な枠組みを提供するTCFD提言に基づきた開示が必要とし、少なくとも2022年4月から導入される東京証券取引所のプライム市場上場企業の有価証券報告書での開示が必要とした。
有報での開示の対象については、気候変動要因のリスクと機会の認識、これに対処する経営戦略・目標を指摘した。TCFD提言のシナリオ分析とその成果については、「定量的なシナリオ分析の様に手法が確立されていない箇所」は開示の取り扱いに検討の余地ありとして、慎重な姿勢を示した。開示の方法については、コンプライアンドエクスプレイン（開示か、さもなくば説明を）方式を検討対象とした。
一方、「金融機関特有の情報開示」を求めたのは日本総合研究所理事の足達英一郎氏。金融機関も「上場企業としての情報開示」が要請されるのは当然としたうえで、 欧州では、投資家保護や預金者保護の観点から「グリーンウォッシュ」や「サステナビリティウォッシュ」を回避するため、積極的に金融機関特有の情報開示を制度化しようとしている、と指摘。
その具体的な方法として、①金融機関が消費者に提供する金融商品のラベル認定②運用するファンドや資産ポートフォリオの炭素濃度の計測と開示③同じくタクソノミーへの合致度の計測と開示④提供する金融商品のインパクトの計測と開示⑤金融当局とのコミュニケーションの対象となるシナリオ分析やストレステストの結果の開示 、等をあげた。
「金融界からは追加的なコスト が生じるので消極的な声もあるが、脱炭素社会に民間資金を動員していくためには、透明性や信頼性 を高めることも重要」として、同情報開示の制度化を論点とした。
日本経済新聞の報道では、井口氏の気候変動情報を有報で開示すべきとの提案に対して、経団連の長谷川知子常務理事は「企業側の開示が画一化しないよう自主性と柔軟性を確保すべきだ」とし、JFEスチールの手塚宏之専門主監は「未来に関する議論は不確実性が高い」として、法的な枠組みには課題があると指摘したという。
有報での開示は、企業価値に重要な（マテリアルな）影響を与える情報を開示するのが基本である。企業側が「自主的、柔軟に」そうした情報の開示の必要性を斟酌することを防ぐものである。したがって長谷川氏の指摘は、会計の基本を無視するものと言わざるを得ない。
手塚氏の指摘が「未来の議論には不確実性があるので有報での開示になじまない」ということだとすると、TCFD提言自体が不確実で、おかしいということになる。しかし、JFEスチールは、TCFD提言に署名しており、HPでは「気候変動問題のリスクと機会への対応について、
JFEの見解は、有報にはなじまないが、サステナビリティレポート等の法定ではない報告書での開示を進めるという意味かも知れない。しかし、その一方で同社は「大量のCO₂を排出する鉄鋼製造プロセスを抱えるJFEグループにとって、気候変動問題は事業継続の観点から極めて重要な経営課題です」と明言している。同社は、「重要な経営課題」と認識する課題についても有報に記載しないのだろうか。株主総会で投資家は、ぜひ、この点をJFEの経営陣に質問してもらいたい。https://www.jfe-holdings.co.jp/csr/esg/climate/tcfd/
https://www.fsa.go.jp/singi/sustainable_finance/siryou/20210209.html
Research Institute for Environmental Finance