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全日空(ANA)、来月に初のサステナビリティ・リンク・ボンド発行。100億円。パフォーマンス改善目標(SPTs)は外部評価の改善。目標未達時は金利引き上げでなく寄付という(RIEF)

2021-05-20 14:49:46

ANAキャプチャ

 ANAホールディングスは19日、サステナビリティ・リンク・ボンド(SLB)100億円を6月中に発行すると発表した。同社のサステナビリティの業績改善を目指す「サステナビリティ・パフォーマン ス・ターゲット(SPTs)」は4つのESG外部評価の取得をあげた。ただ、温室効果ガス削減等の計測データの改善目標とは直接リンクしていない。目標達成できなかった場合にはクーポンレートの引き上げ等が一般的な措置だが、ANAの場合、そうした利率変動は行わず、外部団体への寄付を行うとしている。

 同社はこれまでグリーンボンドやソーシャルボンドを発行している。SLBの発行は今回が初めて。発行するボンドは、期間5年、資金使途は設備投資資金のほか、運転資金、社債償還資金、借入金返済式等の同社の一般事業費に充当する。主幹事はSMBC日興証券、野村證券、みずほ証券、三菱FJモルガン・スタンレー証券の4社。ストラクチャーエージェントは日興証券が務める。

 今回のANAのSLBはいくつかの論点を抱えている。一つは、重要業績指標(KPI)とSPTsの在り方だ。国際資本市場協会(ICMA)のサステナビリティ・リンク・ボンド原則(SLBP)では、発行体はサステナビリティの改善を評価するKPIの設定と、その改善目標のSPTsの設定を求める。ANAの場合、KPIをESG外部機関(DJSI、FTSE、MSCI、CDP)の評価指標とし、SPTsは「これらの4つの評価指標のうち、3 項目以上の達成」とした。

 設定したSPTsは次の通り。
① DJSI World、及びDJSI Asia Pacificの構成銘柄に選定
② FTSE4Good Indexの構成銘柄に選定
③ MSCIジャパンESGセレクト・リーダーズ指数の構成銘柄に選定
④ CDP 「A-」以上の評価取得

  温室効果ガス排出量等の個別データではなく、企業のESG要素を総合的に評価する外部機関の評価指標をKPIとすることは、企業全体のESG評価を指標とするようにもみえる。ただ、SLBPが求める「一貫した方法に基づき測定可能、または定量的」「 外部からの検証が可能」という尺度に照らすと、投資家が外部評価機関の評価を測定したり、外部検証するのは可能なのかという論点が出てくる。

 SPTs設定は企業のサステナビリティパフォーマンスの改善を投資家に示すものであり、SLBの最大のポイントだ。ANAの場合、KPIとした各外部評価機関が設定するインデックスの構成銘柄での選定や一定以上の評価取得としている。確かにインデックスに採用されると明確なので、投資家にはわかり易い。ただ、これらのインデックスはいずれも民間団体による自主的な選定であり、客観性の担保が課題となる。

 SPTsが達成できないと、SLBPでは「クーポンレートの引き上げ」等を事前に投資家に約束するのが典型的だが、ANAの場合、「2022年度末時点で2項目以上が未達成の場合、環境・社会活動を行う一般に認知された法人・団体等に寄付をする」としている。プレスリリースでは、クーポンレート同等の寄付額なのか、寄付の対象団体の選定は第三者が選ぶのか、ANAが選ぶのか等の説明はされていない。

 格付投資情報センター(R&I)のセカンドオピニオンでは、寄付額について「社債発行額の0.1%相当/年」としている。ただ、寄付先の選定については、第三者性を持たせる仕組みかどうかの検証は示されていない。そもそも、他のSLBであれば、SPTsが達成されない場合の「約束違反」は投資家に還元されるのに、ANAの場合、寄付として外部団体に配分する仕組みをなぜ採用するのか、その場合の比較評価はどうなのか、といった説明が必要と思うがどうか。

 ANAは「当社自らのESGへの取り組みに加えて、寄付による活動支援を通じて追加的にポジティブなインパクトを創出する」としている。新型コロナウイルス感染拡大の継続で、航空各社は厳しい経営環境が続いている。その中での資金調達とともに、ESG経営を継続しようとする同社の取り組み姿勢は評価できるとしても、市場で新たに登場したSLBを資金調達手段として活用するうえで、投資家の理解を十分に得られる説明ができているかどうかを再検証してもらいたい。(RIEF)

https://www.anahd.co.jp/group/pr/202105/20210519.html