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コロナ禍からの景気回復で世界の電力需要増大、石炭火力発電も今年5%増、来年3%増。「2050年ネットゼロ」早くもピンチ。電力の『脱炭素』急務。国際エネルギー機関(IEA)報告(RIEF)

2021-07-20 16:11:15

IEA001キャプチャ

 コロナ禍からの経済回復の影響で、電力需要が増大、グローバルベースで石炭火力発電は今年が約5%増、来年は同3%増と増加基調になっている。国際エネルギー機関(IEA)の推計によるもので、その結果、電力部門のCO2排出量は、コロナ禍拡大の影響で2年続いた減少傾向から一転し、今年は3.5%増、来年も2.5%増の見通しだ。IEAは「2050年ネットゼロ」を達成するには、2020年~2025年の電力部門の排出量平均4%削減する必要があるとして、各国のエネルギー政策の抜本的な見直しを求めている。

 IEAが「電力市場レポート2021年」で明らかにした。コロナ感染の影響で、電力部門からのCO2排出量は2019年が前年比1%減、2020年が3.5%の減少となっていた。グローバルな電力需要も2020年には1%減だった。こうしたコロナの影響から各国は「より良く回復する(Build back better)」を目指している。だが、今回のIEAレポートは「bbb」は、「口先」だけで、このままでは失敗となりそうだ。

中国の電力需要増がグローバル需要を引っ張っている
中国の電力需要増がグローバル需要を引っ張っている

 石炭火力の発電が回復・増大し、電力部門からのCO2排出量が増大するのは、景気回復により電力需要がグローバルに高まっているためだ。グローバルな電力需要は2020年の1%減から、今年2021年は5%増に近くまで増大、2022年も4%増となる見通し。電力需要増大の多くはアジア市場。2022年の電力需要の半分以上は中国だけで占める。インドも9%。

 こうした追加的な電力需要をカバーする21年の供給力の45%は化石燃料発電が占める。22年は40%。石炭火力発電は20年に4.6%減少したが、今年はアジアでの需要増を受けて、発電量も5%増とパンデミック前の水準を上回る見通しだ。

 天然ガス火力は、今年、来年と、それぞれ1%増、2%増の見通し。ガス火力が石炭火力より伸びが低いのは、アジア地域では石炭火力が主流である点と、欧米では再生可能エネルギー発電が競争力を高めており、ガス火力の伸びが抑えられるとみている。原発はそれぞれ1%増、2%増にとどまる。

グローバルな再エネ発電の成長と分布
グローバルな再エネ発電の成長と分布

 再エネ発電はコロナ禍の20年に7%増と堅調だった。今年21年も8%増、22年は6%増以上がそれぞれ見込まれている。引き続き堅調な伸びが続くものの、再エネによる電力供給量はグローバルな需要の約半分しか、まかなえない。

 IEAでは、このままではパリ協定の目標達成が不可能になるとしている。同協定の「1.5℃目標」を達成するには、CO2排出量を今後の10年で半減しなければならない。そのためには石炭火力の発電量を年率6%以上削減し、一部をガス火力に切り替える必要があるとしている。ガス火力の伸び率は5%増を目指すべきとしている。

 IEA事務局長のFatih Birol氏は「コロナ禍からの回復に、グローバルベースで約16兆㌦以上が投じられているが、そのうちクリーンエネルギー開発に投じられたのはわずか2%だけ。温暖化対策としては、まったく足りない。このままでは、2023年にはCO2排出量は過去最高レベルに達し、気候変動がさらに加速することが懸念される」と指摘している。

 今後のCO2排出量の増加見通しの約90%は途上国で起きる見通しだ。したがって、途上国の景気回復と電力需要増大に対応するために、途上国で「グリーンエネルギー」投資を支援する必要がある。ところが、たとえば日本政府はインドネシアとバングラデシュでの石炭火力発電事業支援に依然、固執している。そうではなく、これらの事業を最低でもガス火力に、可能ならば再エネ発電に切り替えて、日本政府が支援することこそが、「日本のアジアと地球への貢献」として求められている。https://rief-jp.org/ct7/116252

 Birol氏は「グローバルに見れば、資金は不足していない。しかし、グローバル市場は、途上国・新興国市場には投資リスクがあるとして、躊躇している。太陽光や風力発電のコストは、すでに世界の多く地域で化石燃料発電より安くなっている。国際通貨基金(IMF)等がクリーンエネルギー事業を直接支援することで市場資金の流れを変える必要がある」と指摘している。

 石炭火力等の化石燃料の「リバウンド」は一時的との見方もある。グリーン投資の進展で、これらの事業は「ブラウン経済」との見方が投資家の間で定着してきているからだ。こうした化石燃料資産を抱えると「座礁資産(Strandded Assets)」化するリスクがある。「ブラウン事業・産業」から「グリーン事業・産業」への投資家の視点変更は、電力の需給変動にも影響を及ぼす期待もある。

https://iea.blob.core.windows.net/assets/01e1e998-8611-45d7-acab-5564bc22575a/ElectricityMarketReportJuly2021.pdf