HOME4.市場・運用 |川崎汽船の「トランジション・リンク・ローン(TLL)」、融資期間後のCO2削減率は21.4%止まり。「2030年46%削減目標」にほど遠く。経産省は「モデル」として補助金配布(RIEF) |

川崎汽船の「トランジション・リンク・ローン(TLL)」、融資期間後のCO2削減率は21.4%止まり。「2030年46%削減目標」にほど遠く。経産省は「モデル」として補助金配布(RIEF)

2021-10-01 23:59:16

kawasaki002キャプチャ

 

 川崎汽船は、 経済産業省の「クライメート・トランジション・ファイナンスモデル事業」の認定を受けて、同社初の「トランジション・リンク・ローン(TLL)」の1100億円の借り入れ契約を銀行団と結んだ。同社は「移行の目標」として「2030年までのCO2排出量50%削減(2008年比)」を盛り込んだが、融資期間5年の借り入れ期限時点では、総排出量比で21.4%削減の達成見込みでしかない。30年に延長しても26.2%減で、国の30年目標(46%減)の6割でしかない。川崎のTLLは「何にリンク」しているのだろうか。

 

 (写真は、川崎汽船のLNG運搬船)

 

 経産省は同社の事業を「移行(トランジション)」のモデルとして、セカンドオピニオン費用の大半に補助金を給付する。一般的に移行事業は、移行が容易に進めにくい炭素集約型産業・企業を支援する政策目的に基づくとみられる。本来は、それらの企業はCO2排出量が多い分、平均的な企業よりも、より多くの削減が求められるはずだ。

 

 だが、今回の事例を見る限り、経産省はこれらの企業の目標排出量を、国が全体として目指す30年目標より低い水準でも「モデル」として補助金の対象とする。政策の費用対効果が問われる可能性がある。

 

 川崎汽船の公表資料によると、同社がTLLで目標として設定したサステナビリティ・パフォー マンス・ターゲット(SPTs)は、①資金調達全期間での毎年のGHG総排出量 (2050年までの2008年比50%減の削減目標を線形補間し各年度目標を設定)②資金調達全期間での毎年のトンマイル(単位輸送量)当たりのCO2排出量 (2030年までの2008年比50%減の削減目標を線形補間し各年度目標を設定)③CDP評価でA-以上を維持、の3点。

 

 これらのうち「線形補間」の年度目標は、最終目標値を毎年度に期間按分したものをいう。これに基づくと、今回の融資期間(5年)の期限となる2026年時点の①の総排出量の削減率は21.4%減でしかない。また②のトンマイル当たりでは40.9%減。2030年時点ではそれぞれ、26.2%、50.0%減となる。ただ川崎汽船が設定したSPTの条件は、「資金調達全期間」なので、今回の契約に照らせば評価の対象は、2026年までの5年間となる。

 

 今回のTLLはサステナビリティ・リンク・ローン(SLL)を移行ファイナンスに応用したと思われる。そうだとすると、評価すべきは企業が負う総排出量であり、トンマイル当たりの排出量は補完的な意味でしかない。したがって、仮に30年までの線形補間を採用したとしても、総排出量の削減比率は、国の定める46%削減の6割以下の水準でしかない。

 

 経産省が進める移行ファイナンスは、海運だけでなく、鉄鋼、電力、セメント、化学等の炭素集約型産業の低炭素化を支援する政策目的だと理解できる。ただ、今回の海運企業に適用したような「国の目標よりも3~4割低い削減水準」が炭素集約型産業・企業全体への適用レベルとなると、産業界全体のCO2削減キャパシティはかなり限られ、全体目標として掲げる「30年46%」「50年ゼロ」の達成の可能性が怪しくなってしまう。

 

 一方で、今回の川崎汽船へのTLLシンジケートに参加した金融機関は、資金を提供した借り手企業が取り組む削減対策の目標達成が、融資期間中には得られないことをわかったうえで参加したのだろうか。もしそうだとすると、今回の融資は、国が定めた削減目標にほど遠いことから、参加金融機関は今回の融資をESG融資にカウントするべきではないだろう。

 

 むしろ金融機関に求められるのは、川崎汽船の会社としての排出量がネットゼロ、あるいは、少なくとも国の削減目標水準と同レベルに低下するまで融資契約を通じてコミットすることではないか。5年の融資期間ではなく、2030年あるいは2050年までの長期ローンを供給し、自らも融資ポートフォリオの排出削減管理を厳格に実践すべきだろう。

 

 川崎汽船は「本TLLによる資金調達は2021年3月に組成した本邦初のトランジション・ローンに続く、 第二弾のトランジション・ファイナンスであり、前回は資金使途特定型、今回は資金使途不特定型で、この両方を短期間に組成するのは当社が国内初」と胸を張るコメントをしている。胸を張るのは、国全体の目標としっかり“リンク”した削減成果を実現してからにしてもらいたい。

                          (藤井良広)

https://www.kline.co.jp/ja/news/csr/csr-9203144464672087496/main/0/link/210927JA.pdf

https://www.kline.co.jp/ja/csr/sustainable_finance/main/01/teaserItems1/01/file/Transition%20Linked%20Finance%20Flamework.pdf

https://www.jcr.co.jp/download/d0108df640f9282dc26a682a26c42265a86728a2c4aa02df41/21d0585.pdf