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経産省、排出量が少ない企業も含む全企業に法的義務の賦課金を課し、多排出企業は義務ではない自主的排出量取引制度にとどめ、GX債による金融支援もする「いびつな政策」を提案(RIEF)

2022-11-30 00:49:25

GS4かいキャプチャ

 

 政府は29日、グリーントランスフォーメーション(GX)実行会議を開いた。その中で西村康稔経産相はカーボンプライシング手法について、全排出企業を対象として賦課金制度を義務化する一方で、CO2多排出企業は自主的な排出量取引制度の対象とすることを提案した。さらにこれらの多排出企業に対して、GX経済移行債(国債)による支援を行うとした。GX債の償還財源には、全排出企業からの賦課金も想定しており、排出量削減効果、負担の公平さの両面で「いびつな提案」と言わざるを得ない。

 

 (写真は、首相官邸で開いた第4回GX実行会議)

 

 今回で4回目となった政府のGX実行会議では、経産省のほか、金融、環境、農水、国土交通の各省庁の大臣がそれぞれの取り組みを説明した。

 

 西村経産相は前回の会議(10月26日)に続いてGXを実現するための政策イニシアティブを説明した。その際、カーボンプライシング制度については、全排出企業を対象として賦課金制度とCO2多排出企業向けの自主的な排出量取引制度を比較する形とした。その後、岸田首相より、双方を組み合わせる「ハイブリッド型」とするなどの指示があったとして、今回の説明では両制度を組み合わせる手法を示した。https://rief-jp.org/ct5/129597?ctid=71

 

 ただ、賦課金制度を導入するには法律が必要になる。一方で、経産省が提案する多排出企業向け排出量取引制度は、EUの法的削減義務を前提にする排出権取引制度とは異なり、企業が自ら削減目標を設定して削減コストの安い他社からの排出枠の購入を認めるとするもので、法規制の対象外となる。

 

岸田首相、しっかりしてくださいね
岸田首相、しっかりしてくださいね

 

 しかし本来は、多排出企業にこそ、法的に排出削減義務を課して、確実な削減を実現することが経済全体にとっても効果的、効率的となる。排出量の多い企業に自主的な取引を認め、相対的に排出量が少ない企業を含む全企業に賦課金を義務として課すのは「公平な移行(Just Transition)」に反すると言わざるを得ない。

 

 さすがの経産相も、自らの説明に無理があることを理解したのか、賦課金については「幅広い主体について、排出実績の測定・検証、国に対する納付及びその状況の捕捉等は実務上困難」として、化石燃料の輸入事業者等を対象とした賦課金導入案を追加提案した。この場合、輸入事業者にかかる賦課金は広くエネルギー消費者全体が負担することになる。

 

 同省は、多排出企業向けの自主的な排出量取引制度をGXリーグの軸(GX-ETS)と位置付けている。だが、法的義務ではないため、多排出企業が設定する目標は自らの削減コストの範囲内にとどまるとみられ、そうなると経済全体で必要な削減量を確保するのは難しくなる。さらに、自主的な目標を達成できなくても罰則もない。

 

 排出権取引制度はEUのほか、中国、韓国、ニュージーランド、カナダ、米国のカリフォルニア州等で導入されているが、経産省が提案するような自主的な取引制度は日本だけだ。その理由は明瞭で、自主的な制度では継続的な取引が行われず、排出量全体の削減にはつながらないためだ。理論的にも「想定外」の取り組みなのだ。

 

 経産省自身、自らが提案した同制度について、①非参加企業に(削減)規律が働かず、参加企業との間でGX取組に対する負担の偏りが生じうる②(GXの)枠組みで捕捉出来ない大規模排出源が存在しうる③参加企業間で、目標水準に係る公平性に疑義が生じうる――等の「短所」を認めている。https://rief-jp.org/ct8/130369?ctid=71

 

 同省はこうした「いびつなカーボンプライシング」提案を前提に、「それらの政策導入の結果として得られる将来の財源を裏付けとした『GX経済移行債(仮称)』」 を発行し、「排出削減と成長に果敢に取り組む多排出企業に対して、GX債による支援策との連動」を主張している。ここで同省が「将来の財源」とするものには、法的義務としての賦課金は当然視野に入ると思われるが、自主的排出量取引制度からは入らない。

 

 これではあまりに不公平であるほか、GX債償還の財源の確保も覚束なくなる。そこで、今回、自主的な排出量取引制度を、段階的に「発展」させていくとした。EU等が採用する排出に必要な排出枠を政府が有償で企業に販売する排出枠オークションを参考に、電力会社を対象に同オークション制度を2031年以降、段階的に導入する案を示している。しかしここでも、「法的義務」とは言わず「段階的な有償化」と言葉を濁している。

 

 排出枠を企業に入札で販売する場合は、企業はその枠を買わないと操業ができないという法的な義務を伴う規制が必要になる。電力会社に絞った義務的な排出権取引制度は米国東部のニューヨーク州等が2008年から実施する「地域温室効果ガスイニシアティブ(RGGI)」が代表例だ。経産省はエネルギー基本計画でも2030年以降も石炭火力発電を温存する方針であることから、電力対象の排出権取引制度をまず実施するのが、政策的に望ましい。

 

 それにしても同省の政策立案能力のお粗末さには驚くばかりだ。こうした会議を首相官邸で何度も繰り返している余裕は、日本経済にも、地球環境にも、ないはずだ。

                            (藤井良広)

 

https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/gx_jikkou_kaigi/dai4/siryou1.pdf

https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/gx_jikkou_kaigi/dai3/siryou1.pdf