2050年ネットゼロの実現。超過排出責任を負う日米欧の先進国の支払責任額は総額170兆㌦（2京3700兆円）。米国が約半分。日本も一人当たり年3480㌦の責任。英研究チーム（RIEF）
2023-06-07 21:15:12
世界の国々の1960年以降のCO2排出量と2050年のネットゼロに向けたグローバルな削減負担として、日本を含む欧米等の先進国（グローバルノース）は総額170兆㌦（約2京3700兆円）の支払い責任があるとする試算が公表された。米国の責任が全体の半分近い80兆㌦で、50年までに国民一人当たり年7200㌦の支払いが必要。日本も同様に年3480㌦の支払い責任とされた。これに対し、「グローバルサウス」の途上国の国々は一様に受け取り側で、現在の排出量が最も多い中国やインド等も同様。昨年の国連気候変動枠組み条約第27回締約国会議(COP27）で「損失と損害（Loss & Damage）」への支援で合意したが、その負担をめぐる「グローバルノース」の支払い負担適正化の議論が激化するのは必至だ。
試算を公表したのは英リース大学サステナビリティ研究所客員研究員であり、オックスフォード大学アナリストでもあるAndrew Fanning氏が率いる研究チーム。
研究チームは168カ国を対象に、1960年以降のCO2排出量が世界の気温上昇を「1.5℃」にとどめ、2050年にネットゼロを実現するためのカーボン・バジェット量を試算し、総額1.8兆㌧と推計した。これらのバジェット量を人口当たりで各国に配分すると、先進国のほとんどは、バジェット量に相当する排出許容量を大幅に上回って過去に排出してきたうえに、50年にかけて削減量を上積みしなければならない。逆にグローバルサウスの途上国の多くは、バジェット量より実際の排出量が少ないにもかかわらず、気候変動に伴う「損失と損害」を被っていると指摘している。
同チームは、50年までのカーボンバジェット量の超過分をIPCCのシナリオに基づいて金銭価格で推計した。超過額は年間約6兆㌦、グローバルGDPの約7%として、総額192兆㌦（推計範囲141兆㌦～298兆㌦）。このうち89％分の170兆㌦はグローバルノースの国々が負う責任分とした。残りの11%相当の20兆㌦分は、グローバルサウスでの高排出量国であるサウジアラビア、アラブ首長国連邦（UAE）等の産油国の負担分としている。
国別で、もっとも「排出責任」が大きいのは、一人当たりのエネルギー消費量の多い米国。米国は全体の許容量を約4倍も上回って排出してきたことから、合計で約80兆㌦分の支払い責任があると指摘した。一人当たりでは50年まで毎年7200㌦を支払いが必要になる。支払い責任の多い国は、米国を筆頭に、ドイツ、ロシア、英国、日本の順。日本は許容排出量の2.3倍の排出責任を負い、一人当たりの支払額は年3480㌦となる。
一方で、排出許容量よりも実際の排出量が少ない国として、インドをあげている。同国は直近でこそ排出量が増加しているが、歴史的に低排出国として知られる。50年までを展望しても、バジェットとの差額分の57兆㌦を補償として受け取る権利があるとしている。一人当たりでは年1200㌦の受け取りが必要だ。同様に、インドネシア、パキスタン、ナイジェリア、中国等も受け取りの権利が多い国とされる。中国の一人当たり受取額も年342㌦とプラスで推計している。
Andrew Fanning氏は「気候変動の最悪の影響を避けるために世界は、すべての国が緊急に化石燃料の焼却とともに、温室効果ガスの排出につながる他の活動を停止しなければならない。しかし、すべての国がこの問題に等しく責任を負っているわけではない。問題は気候公平性にある。もしわれわれが気候の不安定につながる過剰なCO2の排出責任を負っていない国にも、緊急の脱炭素化を求めるとすれば、それ等の国々は、こうした不公正な負担に対して、補償されるべきだ」と指摘している。
今回の推計では、アフリカのサブサハラ諸国やインド等の少なくとも55カ国では、排出許容量の75%以上を残したままの低排出状態なのに、気候変動による干害や洪水等の影響を被っている。研究チームは「これらの国々は、年間平均で一人当たり1160㌦の補償を受け取る権利がある」としている。
https://goodlife.leeds.ac.uk/atmospheric-appropriation/
https://www.nature.com/articles/s41893-023-01130-8
Research Institute for Environmental Finance