中国政府、中国の電気自動車（EV）を標的にしたEUの「反補助金調査」に強く反発。逆にEUが導入予定の「カーボン国境調整メカニズム（CBAM）」の保護主義的側面を批判（RIEF）
2023-09-14 22:39:41
（写真は、記者会見する中国商務省報道官＝JNNより）
EU欧州委員会のフォンデアライエン委員長が、中国の電気自動車（EV）を対象とした「反補助金調査」を宣言したことを受け、中国商務省は14日、「強烈な不満」を表明するとともに、EUが2026年の本格稼働させる「カーボン国境調整メカニズム（CBAM）」について、「EUは世界貿易機関（WTO）ルールに反する『グリーン貿易障壁』を創り出すことを避けるべきだ」と、けん制した。https://rief-jp.org/ct4/138920
日本経済新聞やロイター等が報じた。EUの「反補助金調査」は、中国製EVが政府補助金によって低価格輸出攻勢をかけているとの疑念から、今後、13カ月かけて市場で競合する欧米車との価格比較を行うもの。補助金によって価格競争力を高めている場合は、関税等での是正措置を課すことを目指すとしている。フォンデアライエン委員長が13日、欧州議会での演説で明らかにした。
商務省スポークスマンのHe Yadong氏は14日の記者会見で、EUの姿勢について、「公正な競争という名を借りた産業保護だ」と強く批判した。中国の輸出用EVのうち欧州向けがほぼ半数を占めている。それだけに、輸出価格の是正を求められる場合は、輸出鈍化につながる可能性が高い。
同氏は、EUが指摘する中国製EVの低価格は「絶え間ない技術革新とサプライチェーン（供給網）の整備の結果であり、自らの力で勝ち取った競争優位性だ」と反論した。そのうえで、EUがそうした調査を行い、対応しようとする行動は「世界のサプライチェーンを深刻に混乱させて歪め、中国と欧州の経済関係にマイナスの影響を及ぼすだろう」とも指摘した。
中国の乗用車業界団体によると、2022年のEVを中心とする新エネルギー車の欧州への輸出台数は約55万台。新エネ車の輸出全体の48%を占めた。今年も1〜7月ですでに約45万台を輸出している。EUの調査開始によって、中国のEV輸出に影響が及ぶのは間違いなそうだ。
EUの補助金を使った低価格維持、との指摘に対して、中国乗用車業界団体の崔東樹秘書長は同日、中国のSNSで「中国政府の新エネ車に対する補助金は22年末に終わっている」と反論。中国製EVの販売増の原因は「巨額の国家補助金ではない」と強調し、EUの調査に対しては断固として反対すると表明した。政府のEV販売補助金は確かに22年末に打ち切られているが、EVメーカーには政府が監督管理する国有企業も含まれており、企業がEV工場を建設する際にも政府支援を受けるケースも少なくないとされる。こうした「暗黙の補助」を、どこまでEUが追跡できるかがポイントになりそうだ。
一方で、同氏は、EUが打ち出しているCBAM制度の導入についても言及し、「EUが提唱するCBAMは多くのWTO加盟国の疑念を呼んでいる。『グリーン貿易障壁』によって保護主義的手段をとることは避けるべきだ。われわれは、グリーン貿易については多国間の議論を促進するために、すべてのWTO加盟国とWTOのフレームワークの下で協働していく」と述べた。https://rief-jp.org/ct8/138171?ctid=
CBAMはEUと同等程度の気候変動対策を行っていない国からの特定の輸入品に対して、EUと同等の負担（カーボン税）を課すもので、鉄鋼、セメント、肥料等の6産業を対象に2026年から実施する予定だ。今年10月からは、その移行措置として、対象産業の輸入品に含まれる温室効果ガス（GHG）データをEU側に提出する義務を輸入業者に課す措置が始まる。
EUの発想は、EUと同等の気候変動対策を貿易を通じて広めることで、他国の気候政策の進展を促すとともに、EU企業が規制の緩い国に生産基盤を移す「カーボンリーケージ」を抑える狙いがある。しかし、EUへの輸出国の間では、EUが一方的に輸入関税等を高めるのは、保護主義措置であり、WTOの多国間主義に反するとの不満があるほか、気候変動対策での「共通だが差異ある責任原則（the principle of common but differentiated responsibilities）」に反するとの指摘が、途上国等からも出ている。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM147XZ0U3A910C2000000/?type=my#AAAUAgAAMA
Research Institute for Environmental Finance