一般社団法人環境金融研究機構 | Research Institute for Environmental Finance: RIEF

 　米連邦機関の雇用機会均等委員会（Equal Employment Opportunity Commission : EEOC）は28日、電気自動車（EV）大手のテスラが同社の中核的生産拠点であるカリフォルニア州のフリーモント工場で、黒人従業員に対する日常的な人種差別を容認し続けてきたとして、同州の地方裁判所に提訴したと発表した。EEOCによると、少なくとも2015年以降、同工場で黒人従業員に対して人種差別的な中傷などが頻繁にみられたのにもかかわらず、テスラは対処を怠ったうえに、被害を告発した従業員に対して解雇や報復措置を行っていたと指摘している。

　米国での報道では、テスラはEEOCの提訴発表時点では、コメントは出していない。またカリフォルニア州Civil Rights Agencyも同社の人種差別に対して連邦罰金を科す訴訟を行ったほか、テスラの黒人従業員らも訴訟を提起した。

　人種差別問題が表面化したフリーモント工場は、Model S、Model 3、Model X、Model Yの各車種を生産するテスラの旗艦的な工場。日本でも、「カリフォルニアで一緒に働きませんか。世界の持続可能なエネルギーへの移行を加速しませんか」と呼び掛けて、採用募集を行っている。https://www.tesla.com/ja_jp/fremont-factory

　EEOCによると、同工場の黒人従業員たちは、日常的に、工場内で中傷のほか、黒人を揶揄する落書き、「カギ十字」や絞首刑の縄を突き付けて脅迫される等の嫌がらせを受けてきたという。従業員らは、こうした人種差別的行為を会社側に告発したが、テスラは内部調査を十分に行わず、逆に、告発した従業員を解雇したり、報復を加えたりしてきたと、指摘している。

　EEOCは昨年、テスラに対して正式に対応を指示し、テスラ側と解決のための協議を重ねた。だが、協議が物別れに終わったことから、訴訟に切り替えたとしている。EEOCが訴訟に踏み切ったのは、同工場での従業員間での人種差別行為が長期間続いていることへのテスラの対応不足だけでなく、被害にあった従業員を、工場側が逆に解雇したり報復行為を行ったと認定したためとみられる。

　EEOCの発表では、テスラの工場は、差別に反発した黒人従業員に対して、一時帰休や、職場転換等を強いたり、それ以外の不利な労働条件を課すなどの行為が行われていたとしている。会社自体の人権姿勢が不備であり、かつEEOCとの協議でも改善の姿勢が得られないと判断したとみられる。EEOCは通常、こうした人権問題等が起きた場合、EEOCの権限に基づいて企業側と解決のための協議を行う。だが、協議が不調となり、訴訟に持ち込まれるケースは稀という。

　テスラの社会的責任について投資家に対するアドバイスをしているサンタクララ大学の法学教授の Stephen Diamond氏は「連邦機関がテスラの工場での人種差別問題に参画したことで、労働者の主張の信頼性が高まった」と評価している。

　EEOCによると、同工場では、工場内のトイレのカベやエレベーターの中、さらに製造ラインの新車にも、黒人を中傷する「禁止語」が日常的に落書きされるなどの事態が起きているしている。従業員たちは日々、こうした職場環境で仕事を続けねばならない状況に置かれてきたわけだ。

　EEOCのサンフランシスコ地区の事務所のディレクター、Nancy Sienko氏は「人種に関する中傷は組織の規律等にメリットがないばかりか、従業員全体に間違ったメッセージを送ることにつながり、差別行為を正せなくなる。また人種に基づくハラスメントを迅速、効果的に止めるのは会社が負う法的責任だが、それをも損なっていることになる」とテスラ自体の責任を強く指摘している。

　テスラは環境に優しいCO2フリーの電気自動車（EV）の生産で世界的地位を築いた。ESGビジネスの優等生企業ともいえる。だが、ESGの「E」では成功したが、「S」では自社工場での人権問題の解決を長期間放置し、EEOCが指摘するように、告発した従業員に逆に「報復的措置」を講じていたとすれば、テスラの車に乗ることは「恥（shame）」と感じる消費者も増えそうだ。裁判の結果に注目したい。

https://www.eeoc.gov/newsroom/eeoc-sues-tesla-racial-harassment-and-retaliation