HOME4.市場・運用 |英政府。深海底での鉱物資源採掘の「一時停止」支持を表明。開発促進から転換。海洋生態系破壊への懸念を受け。「一時停止国」の増大で、開発促進派の日本は政策見直し求められる(RIEF) |

英政府。深海底での鉱物資源採掘の「一時停止」支持を表明。開発促進から転換。海洋生態系破壊への懸念を受け。「一時停止国」の増大で、開発促進派の日本は政策見直し求められる(RIEF)

2023-11-01 15:54:36

seadevelopment001キャプチャ

写真は、船から吊り下げられる深海底鉱物資源採掘機=国際海底機構のホームページから)

 

 英国政府は10月30日、深海底での商業的鉱物資源採掘について、生態系への影響を理解するに十分な科学的証拠が得られるまで、一時停止(moratorium)とすることを支持すると表明した。これで、深海底採掘の一時停止を求める国は25カ国となった。深海底の鉱物資源採掘に最も積極的に取り組んできた日本が政策の見直しを求められるのは必至の情勢だ。

 

 英国はこれまで、開発促進の立場だった。だが、国内の科学者、国会議員、環境保護論者の批判を受け、国際海底機構(ISA  :  International Seabed Authority)がジャマイカで開いた新たな交渉の開始日(10月30日)に合わせて、急遽、方針転換を公表した。

 

 これにより、深海底での資源採掘を意図する企業の探査契約締結を支援する国は、中国、ロシア、韓国、インド、フランス、ポーランド、ブラジル、日本、ジャマイカ、ベルギー、ナウル、トンガ、キリバスの13カ国に減る。一方、一時停止を求める国はブラジル、ドイツ、スウェーデン、カナダなどに英国を加え、25カ国になった。

 

地震で初日のセッションが中止となった国際海底機構の第28回会合(ジャマイカ・キングストン)
地震で初日(10月30日)のセッションが中止となった国際海底機構の第28回会合(ジャマイカ・キングストン=ISAより)

 

 これまで、深海底の鉱物資源の採掘について、鉱業会社側は、銅、コバルト、ニッケルなどの鉱物は陸上ではなく海から採掘する方が安く、環境への負荷も少ないと主張してきた。少資源国である日本は、国土の周りに鉱物生成が進みやすい海底火山があることから、早くから深海底鉱物に目を付け、研究開発に取り組んでいた。

 

 深海底鉱物資源の概要調査・探査の規則を採択する国際海底機構(ISA)は1994年に設立された。日本は、その設立時以来、一貫して機構の理事国を務めている。2021年には85.4万㌦の分担金を拠出した。ISAのこれまでの活動に際しても、2000年規則採択の「マンガン団塊」において日本の深海資源開発(DORD)が、2012年規則採択の「コバルトリッチクラスト」には独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)がそれぞれ、コントラクターとして探査活動を実施している。

 

 ところが近年、ヨーロッパを中心に、「深海底鉱物資源の採掘は環境に悪影響をもたらす」との意見が出されるようになった。欧州アカデミーの科学諮問委員会は今年6月、深海採掘が進めば海洋生態系に「悲惨な結果」がもたらされると警告。科学者たちは、開発事業からの燃料の流出や採掘プロセスで使用されるその他の化学物質についても懸念を表明した。

 

 こうした背景から英国では7月、野党労働党が英政府に対し、深海採掘を安全に行えるという明確な科学的証拠がない限り、または海洋環境を保護するための新たな規制が導入されるまで、深海採掘は一時停止とするよう要求を突き付けた。さらに、9月に入ると、数十人の科学者が共同でリシ・スナク首相に対し、深海底の商業的採掘を許可すれば、海洋生物にとっても、海洋のCO2吸収力にも、悪影響をもたらすと警告した。

 

  今回の英政府の開発方針の転換について、自然保護団体ブルーマリーン財団(Blue Marine Foundation)のCEO、クレア・ブルック氏は、「英国が深海採掘の一時停止を支持したことを喜ばしく思う。予防原則を行使し、ネット・ゼロへの移行に必要な鉱物を、脆弱な海洋生物多様性の壊滅的かつ恒久的な破壊を引き起こさないような方法で採掘することが不可欠だ」と発言している。

 

 深海底の鉱物資源を製品等に使用することに対して、独BMWやスウェーデンのボルボなどの自動車メーカーのほか、自動車用のバッテリーを製造している韓国サムスン等は、環境問題を理由として、同資源由来の製品は、自動車に使用しないと宣言している。


https://www.isa.org.jm/news/isa-council-to-resume-day-2-of-part-iii-of-the-28th-session-after-day-1-suspended-due-to-an-earthquake/

https://www.bluemarinefoundation.com/2023/10/30/a-glimmer-of-hope-in-the-deepest-darkest-depths/