第一回洋上風力発電事業で落札した三菱商事に対する経済産業省の「救済策」報道で、日本風力発電協会が日経の記事を「誤報」と申し入れ。だが「誤り」は経産省の救済策ではないか(RIEF)
2025-04-03 18:07:54

(写真は、洋上風力発電事業での減損処理を発表する三菱商事の経営陣。㊨から2人目が中西勝也社長=東洋経済オンラインから引用)
経済産業省が洋上風力発電事業の公募後に、入札ルールを見直す方針を打ち出したことに対して、同業界企業で構成する日本風力発電協会(JWPA)が関係企業の懸念等の意見を、同省に提出したと報じられたが、同協会は記事が「同団体が懸念伝達」などと表現したことに対し「事実誤認に基づく記載が含まれている」として、報道した日本経済新聞社に記事の訂正を申し入れた。同件は、洋上風力発電の第一回入札で対象の3事業を総取りした三菱商事が、その後のコスト高の影響で、事業の減損処理を余儀なくされたことから、経産省が同社への配慮として、発電電力の買い取り方式の変更方針を打ち出している。
問題化している洋上風力発電事業の入札問題は、政府が洋上風力発電の最初の事業(R1)として募集した「秋田県能代市、三種町及び男鹿市沖」「秋田県由利本荘市沖」「千葉県銚子市沖」の3海域の事業だ。2021年末に公表された落札結果では3海域とも三菱商事が圧倒的な安値で落札した。
ところが、同社は今年2月になって、その後の内外のインフレ高騰などの影響で、これらの事業について合計522億円の減損処理に踏み切ることを発表。事業実施の成否についても「ゼロベースで見直す」と発表した。これを受け、経産省は、R1事業の条件としていた発電電力の買取制度を固定価格買取制度(FIT)から、市場価格に基づく売電が可能なFIP(フィードインプレミアム)制度に変更する方針を示した。
入札を担当した経産省の条件変更方針は、公的な事業での入札条件を落札後に変更を加え、落札業者の便宜を図る「異例の形」といえる。このため、同入札に参加した他の企業連合などから「公平性に欠ける」との不満が続出している。今回、JWPAが意見書を同省に提出したのは、協会加盟企業間での不満が強いことを示していると思われる。
意見書自体は公表されていない。日経の報道によると、「(協会に)加盟する17社の匿名意見として、『事後的なルール改変で公募の信用失墜につながる』『電力市場への影響が大きい』といった懸念などを伝達した」としたほか、「JWPAに加え過去の公募で落札した企業の有志連合も意見を提出したとみられる。再生可能エネルギー長期安定電源推進協会も対応を検討する」等としている。
協会が日経に「誤報」と申し入れたのは、日経の記事が「風力団体が懸念伝達」「(協会が)加盟企業の懸念などの意見をまとめた」と記載した点とする。
協会のプレスリリースによると、「当協会は本件において、懸念を表明しておらず、意見の集約も行っておりません」としたうえで、「事実としては、各社の意見を集めて提出しただけであり、当協会の見解として取り扱われるものではありません」、「また、業界の中にはさまざまな意見が存在しておりますが、記事では懸念点のみが強調されており、これは事実と異なります」等と指摘している。
経産省と加盟企業との「板挟み」の立場となった同協会関係者の「苦悩」の指摘ともいえる。だが、本来は落札が決まってから3年も経過後に、入札の条件を、それも最大の課題である発電電力の買い取り価格に関する条件を、変更するという役所の対応にこそ、関係業界で組織する協会は、「条件変更は公平性を欠き、政府機関としてあるまじき行動」として訂正を求めるべきではないだろうか。記事を書いた日経に文句をつけるのはまさに筋違いだろう。
当の三菱商事は「ゼロベースで見直す」としているとされる。事業継続の意志を失ったのならば、同社を排除して、改めて入札をやり直すのが、「普通の対応」になる。そもそもは三菱商事自体の入札価格が、経済性を無視した「ダンピング価格」だった可能性も濃厚だ。そうでないのならば、同社の経営層は、妥当な事業判断もできずに、入札に応じたとの批判を受ける可能性もあるだろう。
三菱商事は同事業にまだ着手していないとされる。ならば、入札のやり直しを実施すること自体、事業の着手がさらに遅れるとしても公的な事業なので、やむを得ないといえる。

問題は同社の経営判断の甘さだけでは終わらない。入札企業が、異例の安値で応札した場合、入札を担当する官庁は、対象事業の経済的可能性や、事業者の入札判断の妥当性等を精査したうえで、落札事業者を選択するはずだ。だが、今回のケースでは、経産省が三菱商事の入札額に対して、同社の事業評価の妥当性をどう判断したのかという点が不明のままだ。
同省が入札の公平性を後回しにして、三菱商事の救済策を最優先事項であるかのように対応している姿は、公的な事業を担う官庁として、あるまじき姿に映る。ひょっとして入札に際して、同省は、商事の入札額を経済的にも妥当だとの判断を示していたか、あるいは万一、コスト高になれば、補助金を追加する等の「口約束」等を同社に対して与えていたのかもしれない。そうした経緯を公表されることを恐れて、批判覚悟で救済策づくりに走っているのだろうか。
明らかなことは、今回の洋上風力発電事業での技術評価、市場評価等に際して、経産省をはじめとする日本政府の政策判断能力が薄っぺらで、信頼性を欠くレベルであるという懸念が、どうやら当たっていると思われる点だ。経済性判断が十分にできないので、業者任せにし、業者から泣きつかれると補助金の増額や、ルールの変更も厭わないようでは、政策を担当する意味はない。入札のやり直しとともに、入札担当官庁を別の役所に切り替える必要があるだろう。
(藤井良広)
https://jwpa.jp/information/11277/
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250403&ng=DGKKZO87779050S5A400C2TB3000