日鉄。デンマークの風力大手ベスタス向けに、排出削減に直結しない「マスバランス方式」で「グリーン鉄鋼」提供で協力覚書。「経産省審議官」が「立ち会い(?)」を強調(RIEF)
2025-08-11 22:53:08
日本製鉄が風力発電機の大手ベスタス(デンマーク)向けに、風力発電の風車タワー用鋼材として、日鉄がマスバランス方式を適用して製造した「グリーン鉄鋼」を提供するとの協力覚書を締結した。これに対して、内外の環境NGOらからは、「べスタスの名前を借りた『グリーンウォッシュ』」との批判があがっている。しかも同協力覚書の発表には経済産業省審議官の「立ち会い」であることを強調し、日本政府公認の「グリーン鉄鋼」であるかの印象も与えている。
日鉄の発表は7月30日。同社のプレスリリースは「ベスタス社と、国内風力発電プロジェクトの円滑な実行と、 国内外の風力発電市場におけるサプライチェーン強化を目的として覚書を締結」との表題だ。https://www.nipponsteel.com/common/secure/news/20250730_100.pdf
それによると「両社はグローバルなビジネスの機会を共同で追求し、特に日鉄の東日本製鉄所君津地区および九州製鉄所大分地区から、欧州・アジア・日本市場向けのタワー用鋼材の供給に関する協業を推進する。今後は、グリーンスチール「 NSCarbolex® Neutral(エヌエスカーボレックス ニュートラル)」や熱加工制御プロセス(TMCP / Thermo Mechanical Control Process )で製造された高張力鋼板など高品質の素材を安定供給することでサプライチェーンを強力に支援し、再生可能エネルギーの普及と社会全体の脱炭素化に貢献していく」としている。
この中で「 NSCarbolex® Neutral」が、「日鉄が実際に削減したCO2等の温室効果ガス(GHG)排出量をプロジェクト毎に把握し、マスバランス方式を適用して任意の製品に割り当てた「グリーンスチール(ないしGXスチール)」と、同社が呼ぶものだ。
マスバランス方式は、ある特性を持つ原料(例えばバイオマス原料)と、そうでない原料(例えば石炭)を混合して鉄鋼を製造する場合、各特性を持つ原料の投入量に応じて、製品の一部に対してその特性を割り当てる方法をとる。この場合、バイオマス原料が100で石炭が100だとすると、合計200の燃料で製造される鉄鋼は全量で「排出量50%削減」だが、同方式では、うちバイオマス原料分の100ついて「排出量100%削減のグリーン鋼材」として販売、残りの100は「排出削減ゼロのダーティ鋼材」として販売する。
全体での「排出量50%削減」は変わらないが、バイオマス原料分の「グリーン鋼材」は「排出量100%削減のグリーン鋼材」として「グリーン製品」を求める事業者・企業に売却できる。だが、排出量全体は変わらない。チャットGPTに聞いてみたところ、「マスバランスを用いてグリーン鉄鋼の製造プロセスを管理することは、CO2排出量の正確な把握や流れの追跡に役立ちますが、それ自体が直接的にCO2排出をゼロにするわけではありません」との回答を得た。
しかし、日鉄等が加盟する日本鉄鋼連盟などは、鉄鋼の脱炭素化を進める「グリーン鋼材」の定義に、「マスバランス方式」を盛り込もうとして、科学的根拠に基づく目標イニシアティブ(SBTi)や、国際標準化機構(ISO)、世界鉄鋼協会でのCoC(チェーンオブカストディ)の手法に関する協議等に働きかけを続けているという。今回のベリタスとの協業覚書は、そうしたマスバランス方式活用の「実績」づくりの一つとの見方もできる。https://rief-jp.org/ct5/157884?ctid=
ベスタスにすれば、使用する鉄鋼素材が、マスバランス方式で「100%排出量削減」扱いとなると、風車での発電量だけでなく、同社の風力発電躯体自体も「グリーン」として、ライフサイクルアセスメント(LCA)での「グリーン性」を市場での競争力として加味できる可能性が出てくる。日鉄にとっても、「グリーン鋼材」の供給力を強調できる。だが、実際の日鉄の鉄鋼生産からのGHG排出量は同方式を採用する前と後でも何ら変わらない、という構図になる。

気になるのが、同社のプレスリリースに「経済産業省審議官立ち会いのもと」として、写真入りで同審議官が「立ち会い役」として登場している点だ(↑の写真)。民間企業同士のビジネス連携の記者発表資料に、経産省審議官がなぜ立ち会うのか、という説明は同リリースには一言もない。それどころか、同審議官の役職名は紹介されているものの、個人名は掲載されていない。役人が何らかの職責上の理由で民間金融機関の記者発表に立ち会うが、個人名を掲載しないのは珍しい。本当に経産省の役人なのか、と首を傾げてしまう。
ベスタス社はこれまで世界88か国で190GWの風力発電機を導入した業界ナンバーワンの実績を誇るグローバル企業として知られる。ただ、最近は中国勢の進出が目覚ましく、国際市場では競争力に陰りが生じているとされる。プレスリリースでは「 両社はグローバルなビジネスの機会を共同で追求し、特に日鉄の東日本製鉄所君津地区および九州製鉄所大分地区から、欧州・アジア・日本市場向けのタワー用鋼材の供給に関する協業を推進する」としている。
日本政府による日鉄への政策支援の余波をベスタスも受ける形で、国際風力発電市場での競争力強化につなげようという判断かもしれない。経産省は、マスバランス方式を適用したグリーンスチール鉄鋼が実際の風力発電事業に採用されることで、「グリーン風力発電」の実証機として内外にアピールすることで、同方式の国際認証化に活用しようということかもしれない。
こうした疑問点が多い日鉄とベスタスの協業合意に対して、内外の環境NGOらからは、「べスタスの名前を借りた『グリーンウォッシュ』では」との批判とともに、経済産業省審議官の「立ち会い」により、両社の「グリーン鉄鋼」「グリーン風力」は日本政府の公認を得たとの誤解を市場に与えるとの批判も出ている。
実際にはベスタスはすでに欧州市場で、風力発電事業者向けに、マスバランス方式ではなく、実際の低排出鋼材を使用した風力タービンを提供している。 鉄鋼業界に対して脱炭素化を求める活動を展開しているNGOスティールウォッチのアジア担当、ロジャー・スミス(Roger Smith)氏によると、「同鋼材はアルセロール・ミッタル社により、スクラップ鉄100%を鉄源とし、風力発電100%で稼働する電炉で生産されている」という。
同氏は、「ベスタスは再エネ分野の世界的リーダーであり、自社の風力タービン製造用にグリーン鋼材を調達することは鉄鋼業界の脱炭素化を後押しする可能性がある。しかし、そのためには、帳簿上の削減にとどまる製品にお墨付きを与えるのではなく、実際に低排出な技術によって生産された鋼材を求めることで、鉄鋼メーカーの低排出技術への投資を後押しする役割を期待する。日本製鉄のNSCarbolexは、現状では石炭由来の鋼材でありグリーンとはいえない」と指摘している。
(藤井良広)
https://www.nipponsteel.com/common/secure/news/20250730_100.pdf

































Research Institute for Environmental Finance