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日本の大学で初めてPRI(国連責任投資原則)に署名した上智大学の資産運用を担当する引間雅史さんは、エコファンドの生みの親(RIEF)

2015-11-20 11:07:23

hikimaキャプチャ

 上智大学が国連責任投資原則(PRI)に日本の大学として初めて署名したことが話題を集めている。同大学の資産運用を担当する引間雅史さんは、実は筋金入りのESG運用のプロでもある。

 

機関投資家の一つである大学。米欧では年金基金と並んで市場の主要プレイヤーと目されているが、わが国市場ではその存在感はほとんどない、といっても過言ではない。そんな中で今回の上智の決断は異彩を放つ。

 

PRIへの日本の資産保有機関としての署名は8件目で、他の年金基金等も署名を躊躇っている中での大学初の署名となった。引間さんは、「(署名に対して)金融機関からの反響が半分くらい。他の大学関係者からはごく一部の反応にとどまった」と苦笑する。

 

引間さんの肩書は、上智大学特任教授兼上智学院財務担当理事補佐。経済学部で証券投資論の授業を持つ一方、同大学の資産約420億円(10月末現在)の実質的運用責任者でもある。

 

1979年上智大学外国学部卒で、三菱銀行(現三菱東京UFJ銀行)、日興国際投資顧問(現、日興アセットマネジメント)、外資系のアライアンス・バーンスタイン社を通じて、25年以上にわたり資産運用分野で腕を奮ってきた運用のプロである。

 

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09年、リーマンショックで日本の大学も軒並み資産運用で大幅な損失を計上した。上智も例外ではなかった。母校に招聘された引間さんは、運用体制の抜本的な立て直しに取り組んだ。大学当局が直接、証券会社と取引する従来のスタイルを改め、信託や保険、資産運用機関等に外部委託する年金スタイルに切り替え、ポートフォリオの改善を進めた。

 

こうした改革によって、「ようやく3年ほど前から大学の資産運用に相応しい取り組みに着手できる環境になった」という。ここからが引間さんの持ち味が出てくる。他の大学の資産運用も最近は、元金融マン、財務マンらが担当しているケースが多い。だが、引間さんにはもう一つ別のキャリアがある。

 

今から15年以上前の日興アセット時代に、日本で最初のSRI(社会的責任投資)ファンドであるエコファンド(日興エコファンド)の開発に取り組んだESG運用の先駆者の経歴である。実は筆者もかつて「エコファンドの引間さん」に取材をしたことがある。

 

今年5月には上智大学がグローバルコンパクト(GC)に署名する道筋を拓いた。GCには10の原則があり、その中に環境分野では、「環境に対する責任のイニシアティブ」等が示されている。「署名は行動のため」なので、大学の資産運用の分野でこの原則を実現しようと、次のステップとしてPRI署名を決めたという。

 

更なるステップは、PRI原則に沿ったESG運用のパフォーマンスを高めることにある。ただ、国内ではESG運用の商品が多くない点が悩みでもある。資産保有機関側の動きが鈍い時期が長いと、資産運用サイドの力量も向上しないわけだ。「運よく海外商品でいいものが見つかった」という。また、引間さんは、他の大学の資産運用担当者とも勉強会等を続けており、日本の大学の資産運用全体の底上げにも意欲的だ。                                                                                                                                            (藤井良広)