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超省エネ、次世代パワー半導体を開発へ。国内の使用電力を1割削減可能に。ノーベル物理学賞受賞の名古屋大・天野浩教授らの研究グループ(中日新聞)

2016-10-03 15:44:17

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 二〇一四年にノーベル物理学賞を受賞した名古屋大の天野浩教授(56)らの研究グループが来年度、受賞の決め手となった技術をさらに発展させ、電子部品「パワー半導体」の次世代型の開発を本格化させる。名大が学内に関連施設の整備を進めており、実用化を急ぐ。開発、普及が実現すれば国内の全電力使用量を一割以上、削減できるため「省エネの切り札」と期待される。

 

 天野教授は青色発光ダイオード(LED)の開発で赤崎勇名城大終身教授(87)らと物理学賞を共同受賞。青色LEDの材料の窒化ガリウム(GaN)の結晶化に成功したことなどが理由となった。

 

天野教授
天野教授

 

 パワー半導体は電圧や電流を制御する電子部品。大半がシリコン製だが、代わりにGaN結晶を使う次世代型は大幅に省電力化、小型化ができる。ただし、従来のLED用のGaN結晶は構造が粗く、LEDより通電量が多いパワー半導体に使用するための品質向上が課題となっている。

 

 名大はGaN研究を推進するため昨年、天野教授をトップに、研究拠点「未来エレクトロニクス集積研究センター」を発足させ、この難題に挑んできた。

 

 天野教授らは、結晶を成長させる土台の物質を変更するなどして、結晶構造の整った高品質のGaN結晶の生成に道筋をつけた。実用的な一センチ四方の大きさの結晶を効率的に作ることができる新型の結晶生成装置を既に独自開発。来年度から本格運用できる見通しが立った。

 

 現在、名大は構内に延べ三千平方メートルの精密作業用クリーンルーム棟を整備しており、完成後はこの装置や、パワー半導体の製作設備などを置く。さらに五千七百平方メートルの新研究棟を建設。天野教授ら名大の研究室のほか、GaN研究に取り組む他大学との共同研究拠点や、トヨタ自動車などとの産学連携拠点としても活用する。

 

 今年のノーベル賞は三日の医学生理学賞を皮切りに各賞の発表が続く。天野教授は「(受賞後も)やらなきゃいけないことはたくさんある。次世代型の開発で温室効果ガスも大幅に減らせる。地球エネルギー問題、環境問題を解決したい」と話している。

 

◆LED以上の波及効果

 

 パワー半導体は半導体の一種で、送電システムやコンピューター、鉄道車両、電気自動車(EV)など幅広い分野で使われている。現在のシリコン製では通電時に熱として放出され、むだになる電力が大きいが、次世代型ではこの損失が十分の一になるとされる。実用化されれば、社会的な波及効果はLED以上といわれる。

 

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    名大などの試算では、次世代型が普及すれば日本の電力消費量だけでなく、二酸化炭素(CO2)の排出量も一割以上、削減できる。同時に小型化や高性能化も可能となり、高速データ通信システムや高効率な太陽光発電システムの開発にもつながる。

 

 現在、パワー半導体の市場規模は世界で二兆円以上。次世代型が登場すれば市場拡大は必至で、世界各国が開発を競っている。

 

 国内では研究機関や自動車メーカー、電機メーカーなど計六十一団体が共同研究体「GaN研究コンソーシアム」をつくり、国を挙げて研究を進めている。その中心となっているのが、世界最先端のGaN結晶技術を持つ名大だ。

 

 産業界と大学との橋渡しをしている産業技術総合研究所(茨城県つくば市)のGaN研究担当者は「GaNを使ったパワー半導体開発は、海外勢に押され気味な日本の電機メーカーにとって大きな力になる」と話す。                  (坪井千隼)

http://www.chunichi.co.jp/article/front/list/CK2016100202000075.html