HOME11.CSR |東芝 米原発事業で数千億円の巨額損失発覚。原発安全性コスト増か、買収交渉の不備か。原発事業は収益源にならず「損失源」になるという事実(各紙) |

東芝 米原発事業で数千億円の巨額損失発覚。原発安全性コスト増か、買収交渉の不備か。原発事業は収益源にならず「損失源」になるという事実(各紙)

2016-12-28 13:13:38

toshiba2キャプチャ

 

  各紙の報道によると、経営再建中の東芝は27日、昨年子会社のウェステイングハウス(WEC)が買収した米原発建設会社のコストが想定を大きく上回り、最大数千億円の損失を計上する見通しになったと発表した。原発の安全コスト等の増加が原因とみられるが、買収時ののれん代100億円の案件が数千億円の損失を生むのは通常考えられず、東芝とWECのガバナンスに“異常”があるとの見方も浮上している。

 (写真は綱川智東芝社長)

 

 多額の損失の原因とされるのは、WECが昨年12月に買収した「CBI&ストーン・アンド・ウェブスター(S&W)」。東芝は買収時に、SW社の時価評価した純資産を100億円程度のマイナスと見て、その分をのれん代とする予定だった。のれん代は買収金額が時価評価した純資産を上回る額を計上する。しかし、その後、精査したら100億円を大きく上回る数千億円規模のマイナスになることがわかった。

 

 東芝にすれば、買収金額はゼロで、「お買い得」のつもりで引き受けた案件だった。SW社は原発プロジェクトの建設工事を一定の金額で請け負っている。つまり、コストが下回れば利益となり、逆にコストが膨れると損失となる。

 

 米国だけでなく、欧州でも、日本の東京電力福島第一原発事故後、安全性対策の上積みが求められ、コストアップ要因になっている。また物量や作業員の効率の観点から人件費等の建設工事コストも、当初の想定より大幅に増大している。

 

 WECは米国で2地区4基の原発建設のプロジェクトを遂行中。これらのプロジェクトでは原子炉メーカーのWECは、S&W社でコンソーシアムを組んで事業を進めている。しかし、WECの米国プロジェクトでは、コンソーシアム内でコスト負担などを巡って係争が発生。さらにプロジェクトが遅れる悪循環に陥った。

 

 ある情報筋は、「WHがS&Wの数千億円の負債あるいは何かしらの支払い義務を『無条件で引き受ける約束』で買収したのではないか」と指摘している。買収時点では損失総額は不明のまま、買収価格の価格配分手続中に実態が判明したものの、契約条件でそれらを全額引き受けざるを得ない形になったのではないかとの推測もある。

 

 いずれの場合も、買収決定の判断に不備があったとの見方が出てくる。加えて、東芝の子会社への監視体制の甘さも明らかになった。WECから東芝に報告があったのは12月中旬になってからという。米国市場をWEC任せにしていたツケが噴出した形だ。

 

 ガバナンス面で後手に回った点は否めない。東芝経営陣にとって、買収決定の経営判断、子会社、孫会社への管理体制の適切性などに落ち度があったとすれば、日米両市場で株主代表訴訟を提起される可能性もある。

 

 toshibaキャプチャ

 

 東芝は、最終的な損失額はS&Wの内容を精査したうえで、来年2月に公表する予定の今年10~12月期決算に反映させると説明している。

 

 東芝は昨年発覚した不正会計事件を受け、事業を再編成、原子力事業を収益の柱とする新体制をとっている。その原子力事業で今回の多額の損失発生の見込みが発覚したことになる。

 

 16年3月期決算では、米原発事業の資産価値の低下を受けて、2476億円の減損処理を実施した。この処理を含めて、決算は過去最大の4600億円の純損失を計上した。財務の基盤である株主資本は、今年9月末時点で3632億円なので、S&Wの損失額次第では、債務超過に陥るリスクも浮上している。http://rief-jp.org/ct4/60642

 

 綱川智社長は記者会見で、S&Wの買収について「当時はリスクを上回るメリットがあると判断した」と釈明した。原発担当の畠沢守執行役は「東日本大震災以降、世界的に安全を最優先にモノをつくるようになったことが影響しなかったとはいえない」と説明している。

 

 東芝が買収取引で、非合理な契約を飲まされていたのか、あるいは、買収後にS&Wが抱える既存案件の追加安全性コストが急膨張したのか。あるいはWEC任せにして“漫然”としていたのか。

 

 今後の焦点はこの点の解明にある。仮に、のれん代100億円の原発建設会社に対して、追加の安全対策で数千億円の追加コストを計上する必要があるとすれば、東芝製だけではなく、安全性を見込んだ原発の経済性コストは、従来の想定以上に大きいことになる。

 

 日本では、原発行政に責任を負う経済産業省が、今も、「原発はもっともコストの安い発電源」と強調している。だが、米国だけでなく欧州でも原発コストが上昇している中で、日本の原発だけがコストが安く維持できるということはあり得ない。あるいは「日本の原発は福島事故後も安全コストを加味していないので、コストアップしない」ということなのかもしれない。

 

 綱川智社長は、(債務超過を避けるための)資本増強の可能性について「それを含めて検討する」と述べた。ただ、自らの経営責任については「責任は痛感している」としながらも、「今は(損失の)処理に集中したい」と語るにとどめた。