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スイスのベンチャー企業。CO2を大気から直接回収・貯留する「究極のCO2回収」技術を開発、商品化を目指す(RIEF)

2017-10-04 22:29:34

CCS1キャプチャ

 

  大気中のCO2を直接吸引・回収してしまう「究極の温暖化対策」といえる技術の開発が、スイスで進んでいる。チューリッヒを拠点とするスタートアップ企業のClimeworks社だ。工場等から排出されるCO2を回収するという点で、地下や海底に貯留するCCS(回収貯留技術)と類似しているが、大きく違うのは大気中から直接、CO2を回収する点だ。

 

 チューリッヒ工科大学出身のChristoph Gebald氏とJan Wurzbacher氏が、2007年に開発を始め、2010年にClimeworks社を立ち上げた。すでに自動車メーカーのAudiが同社のパートナーに加わっているという。2016年にマラケシュで開いたCOP22では、気候変動解決の主要技術開発企業20社の一つに選ばれている。

 

 同社の技術は、ある意味でシンプルだ。大気中のカーボンを大きなパイプで吸い込み、特殊なフィルターで吸着・回収する。フィルターが吸着したCO2でいっぱいになると、100℃前後の低温で熱することで、CO2はフィルターから分離され、濃縮CO2ガスとして回収される。CO2を分離したきれいな空気は、再び大気中に戻される。回収したCO2は水素エネルギー等に変換できる。

 

Climework2キャプチャ

 

 フィルターは高度な再利用に耐えられるので、数千回の大気循環が可能という。設備を循環的に稼働させることで、次第に大気中のCO2濃度が低下する、というわけだ。設備は複数台を連結させて、稼働させることができる。

 

 Climeworksは、この大気からの直接回収コストを、将来は、㌧当たり80㌦程度にまで改善する計画だ。現在、開発している初期設備では、600㌦とかなり高い水準にある。次世代設備では、コストは半減して300㌦前後を目指している。もちろん、それでもEU-ETSなどのカーボン価格に比べると、50~60倍も高い。これらのコストには水素エネルギーの販売収入等はカウントしていない。

 

 CO2を回収する仕組みは、複数ある。①工場等からの排ガスからCO2を吸収し、地中・海底等に貯蔵する通常のCCS技術②CCSで回収したCO2でバイオエネルギーを開発するバイオエネルギーCCS(BECCS)③植林によりバイオマスと土壌での吸収力を高めるAfforestaion④化学反応を使って破砕ケイ酸塩岩によCO2吸収(Enhanced Weathering)――それに今回の大気からのCO2直接吸収法だ。

 

Climework3キャプチャ

 

 Climeworks は、「ライバル」の他の方式の課題を指摘する。通常のCCSでは大量の水が必要で、水質汚染の課題もある。また植林などは大きな土地と時間がかかる。Enhanced Weathering方式は、CO2を吸収したケイ酸塩岩を大量に保管しなければならない。これらに対して、直接吸収法は大気を循環させ続けるので、フィルターを洗浄処理すれば済む。広い場所も不要。

 

 一般的なCCSは工場等からの排出量を引き下げる効果があるが、すでに大気中に排出されたCO2の濃度を下げる効果はない。植林はそうした効果が期待されるが、樹木の成長に時間がかかる。直接吸収法は、CO2濃度の低下を早める効果も期待される。

 

 

 直接吸収法の最大の課題はコストだが、同社は太陽光発電や風力発電のコストが、大量生産に移行することで問題は解決すると指摘している。確かに、再エネ発電のコストは最近、急激に低下し、すでに最安値の太陽光発電では、kWh当たり2㌣を切るものも登場している。

 

 

 また回収したCO2を活用することで、収益を上げることも想定される。その最大の期待はCO2を活用した水素エネルギーの製造だ。現在は回収したCO2を温室栽培などに充当して、トマトなどの栽培に利用するプラントも動かしているという。

 

 何よりも驚かされるのは、人類が産業革命以来の経済活動で大気中にCO2を放出し続けたのだから、それを吸収してしまえばいい、という発想と、それを現実化する技術の開発力だ。こうした発想力と実現力は日本の環境・再エネ技術にはちょっと、みられない。「日本の技術は高い」と国内ではいまだに語られているが、グローバル企業は、はるか先を走っているようだ。

 

http://www.climeworks.com/