欧州共通の「省エネ住宅・建物ローン」共通基準・ラベル化が動き出そうとしている。EUが推進する 「省エネモーゲージ行動計画(Energy Efficient Mortgages Action Plan:EeMAP)」によるもので、CO2排出量の多い住宅・建物分野の省エネ化を進めるとともに、共通の省エネ評価を受けた住宅・建物ローン債権を新たな「グリーン建物資産」として市場化し、銀行などの自己資本比率規制上で有利な評価を得る狙いもある。
EaMAPはEU資金で進められている。欧州モーゲージ協会・欧州カバードボンド評議会(EMF-ECBC)、E.ON、World Green Building Councilなどが共同参加している。「省エネ住宅・建物ローン債権(モーゲージ)」の共通ガイドラインを整備したドラフト案を作成、今月半ばまでの期間に、パブリック・コメントを募集している。市場の意見を集めた後、6月にも英・ウィンザーでパイロット事業を開始する予定だ。
EaMAPのドラフトでは、銀行はエネルギー効率化を高めた住宅・建物への融資について優遇金利を提供するとともに、評価の対象となる省エネ化の国別の基準を、評価機関とその手法を含めて、EU全体で共通化する。銀行にとっては、新築だけでなく、住宅・建物の省エネ改造需要を高める効果が期待できるほか、「省エネモーゲージ債権」のEU共通市場が形成されると、保有債権の証券化などを容易にできる。
さらに銀行が保有する「省エネモーゲージ債権」は、他の一般貸出債権等よりも倒産リスクや回収損失率も低いと推定され、バーゼルの銀行自己資本比率規制での対象債権としてのリスクウェイトを引き下げることが期待できるという。
先に公表された欧州委員会のサステナブルファイナンス・ハイレベル専門家会合(HLEG)の最終報告書でも、グリーン資産を自己資本比率規制で優遇する案を勧告している。ただ、グリーン資産が低リスクかどうかについては議論が分かれており、金融監督関係者らが反発している。
しかし住宅・建物ローン債権は、現行のバーゼル規制でも別扱いとなっている。たとえば、一般貸出債権のリスクウェイトは、格付がある場合で20~150%、ない場合100%、株式は100%などと高い。これに対して、住宅ローン債権は35%と軽減されている。今回のEUのプロジェクトは、これをさらに省エネ付与で追加軽減を求めることになる。
金融機関にとって、住宅・建物の新たな省エネ改造による融資需要の増加への期待とともに、自己資本比率対策にもなるとすれば、応援しないではいられない。6月に始まるパリロット事業には、 ABN Amro、 Barclays、 Berlin Hyp、 BNP Paribas、 Credit Agricole、 ING、 Societe Generale、 UniCredit、Volksbank Banco Popolareなど35の銀行が参加し、協力する予定。
EMF-ECBCの事務局長でEaMAPのコーディネーターでもあるLuca Bertalot氏は、「過去4年のわれわれの活動で、建物の省エネと、銀行のバランスシート上のリスク低減の間には相関性があることを、実績として示すことができた。われわれはこの成果を欧州委員会とバーゼル委員会に示している」と説明している。