気候変動の激化による「気候難民」。2050年には、サハラ以南、南アジア、中南米で合計約1億4300万人に。難民受け入れ先でも大きな課題。世界銀行が初の報告書(RIEF)
2018-03-20 20:10:29
世界銀行は19日、気候変動に効果的な手を打たなかった場合、2050年までに、アフリカのサハラ以南、南アジア、中南米の3地域を中心に、合計で日本の総人口を上回る約1億4300万人が生活の拠点を離れて難民化するとの報告書を公表した。しかし、明確な温室効果ガス削減の実施と各地域での開発・発展計画を推進すれば、約80%の難民化は防げるとし、パリ協定の順守と、国連持続可能な開発目標(SDGs)の達成の重要性を強調している。
世銀が、気候変動が原因となる移民問題の報告書を公表したのは今回が初めて。報告書は「Groundswell – Preparing for Internal Climate Migration」。調査は世銀の首席環境スペシャリストの Kanta Kumari Rigaud氏を中心として、米コロンビア大学 CIESIN、ニューヨーク大学Institute of Demographic Research、独Potsdam Institute for Climate Impact Researchの各研究者、モデル分析者らがチームを組んでまとめた。
気候変動の激化が顕著になる3地域については、多次元モデルアプローチで、各地域内での気候難民の規模を推計した。その結果、推定難民数は、アフリカのサハラ以南で8600万人、南アジア4000万人、中南米1700万人。途上国の人口の半数以上がこれらの3地域に住んでおり、同地域の住民の2.8%が気候変動リスクにさらされることになる。これらの3地域以外でも、気候変動の影響を受けて生活の場を追われる難民が数千万人規模で起きるとされる。
国別では、エチオピアの人口が2050年までに2倍に増える一方で、作物の収穫量が減少し移民が増加する。バングラデシュではすでに経済難民等が国内で発生しているが、それらの国内難民の中で気候移民が占める割合が最大となる。メキシコでは居住が困難になった農村地域から、都市部への人口流入が加速するとみられる。
人々が難民化する理由は、気候変動の激化によって、農業地帯での水不足、日照りの影響による穀物不作、沿岸地域での海面上昇、暴風雨や嵐などの頻繁化などによって、生活基盤が破壊されてしまうためだ。これらの気候変動難民は、すでに各国で起きている経済面や政治、社会、軍事などの各面の影響で起きている数百万人規模の政治難民、経済難民に追加される。
今回の調査は、気候変動の主要な「ホットスポット」を確定したといえる。難民問題は、人々が生活の場をおわれるだけでなく、新たに周辺の都市や、豊かな田園地帯等に移ることを意味する。それらの地域では難民を受け入れるためのインフラ整備や教育・雇用問題等への取り組みが増大することにもなる。
取りまとめを担当した世銀のRigaud氏は「適切な計画と支援がないと、人々が被害地域から周辺の都市などに大量の難民として流入することは、新たな、そしてもっと危険なリスクを引き起こす可能性がある。資源不足の結果として緊張と紛争が増加する可能性がある。気候難民の発生は現実の問題だが、われわれが今、計画をもって動き出せば、対応できる」と述べている。
報告書は、グローバルレベル、地域レベルで今、対応すべき主要な活動を、以下のように提案している。
①人々や生活の場に及ぼす気候圧力を減らし、気候難民の規模を減少させるために、グローバルな温室効果ガスの排出量を削減する②気候難民の全体サイクルをマネージできるよう転換発展計画を組み込む(事前、移行期、難民発生後の3段階に応じて)③気候難民の動向と各国レベルの傾向への理解を改善するためのデータと分析に投資する、など。