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米サステナブル会計基準審議会(SASB)の創始者、ジーン・ロジャースさんが退任。SASB基準の本番適用を見届ける形で(RIEF)

2018-04-26 07:11:56

SASB4キャプチャ

 

   米サステナブル会計基準審議会(SASB)の創設者であり、SASB基準理事会の議長を務めていたジーン・ロジャース(Jean Rogers)さんが退任した。SASBは今夏にも、ESG等の非財務情報を財務報告書に開示するための基準を開示する直前での退任となったが、ジーンさんは、自ら手がけたSASBの船出を見届けて、新たな道に向かうということかもしれない。

 

 (写真は、ゴア元副大統領(右)と、ブルームバーグTCFD座長(左)と一緒のジーンさん)

 

 新たな議長は、副議長を務めてきたジョージア工科大学の会計の専門家、Jeffrey Hales氏が就任した。ジーンさんは昨年、CEOの座を離れて理事会議長に就いていたが、今回、すべての役職から去ることになる。ただ、Hales氏へのスムーズな移譲と、SASB基準のスタートを控えていることから、8月1日までコンサルタントとしてとどまるという。

 

 ジーンさんは、サステナビリティ関連のコンサルタントを9年続けた後、2011年、SASBを自宅で立ち上げた。企業が自社のサステナビリティ関連の情報を開示する尺度・ツールがない、という現状に直面、ならば自分の手で開発しよう、と動き出したという。

 

 昨年7月までSASBのCEOとして、その後は、SASB基準理事会議長として、非財務情報開示の手法の整備に陣頭切って取り組んできた。SASBの目的は、米企業のSEC基準の財務報告書に非財務情報を盛り込むガイドライン作りである。そのユニークな点は、ESGなどの非財務情報の重要性は、産業、業種によって異なるとの視点から、11産業79業種に分けて非財務情報の開示項目と開示方法の整備をしたことだ。

 

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 当初は、無謀とも思える膨大な構想だった。だが、ジーンさんのリーダーシップの元、基準作りには2800人を超える専門家が内外から集まり、ドラフト案の作成、それに対する各専門家による加筆・修正・補強、さらにパブリックヒアリングというプロセスを5年にわたって一つずつ、積み上げた。筆者(藤井良広)も11の産業のうち、2つの産業の基準化に参加、合計8業種の作業に関わった。

 

 SASB事務局はジーンさんの言葉として、「問題の解決法は、勇気がある世間知らずな誰かによって、思い描かれ、取り組まれる。世界を見たい、知りたいと思う人ならば、誰でもそうした変革は可能なのだ」とのフレーズを紹介している。

 

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 その言葉通りに彼女は5年間で、すべての産業を網羅するサステナビリティ基準を立ち上げた。SASBはFASB(米国財務会計基準審議会)の名前をもじった非営利団体だ。だが、米国の会計基準作成機関であるFASBが長年、成し得なかった非財務部門の情報開示ガイダンスを、SASBが市場ベースで自発的にまとめたのは、まさに「勇気ある世間知らず」の手による快挙である。

 

 しかも、金融安定理事会(FAB)の気候関連財務情報タスクフォース(TCFD)の勧告に沿った情報開示がグローバルに求められる中、TCFDの趣旨を体現する形で、SASB基準の本番化が、まもなく始まろうとしている。この段階で、「おさらば」というのは、あまりに格好良すぎる。ひょっとして、内部事情があったのか、と思ったりしないでもないが、ここは、ジーンさんの慧眼と、その類稀なリーダーシップに、拍手を送りたい。

                     (藤井良広)

 

https://www.sasb.org/about-the-sasb/