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フランス政府、来年1月からの燃料税増税を半年延期。市民の抗議行動の沈静化を図る。「温暖化対策のための増税」の論法、市民に通ぜず(RIEF)

2018-12-05 15:49:21

franceキャプチャ

 

 各紙の報道によると、フランスの燃料税増税に反対する市民の抗議行動が毎週続く問題で、フィリップ首相は4日、来年1月1日に予定していた課税額の引き上げを6ヶ月延長すると発表した。市民の怒りを宥める沈静期間を設けることとした。しかし、市民の多くは「延期ではなく、中止」を求めている。今週末に市民たちが、街に出て抗議の意志を改めて示すか、それとも自宅で様子見するか。重要な週末になりそうだ。

 

 (写真はテレビ演説するフィリップ仏首相)

 

 フィリップ氏(Édouard Charles Philippe)は4日のテレビ演説で「関係者との議論無しには増税しない。国民の怒りの声を聞かないわけにはいかない」と説明した。同氏は燃料税増税とともに値上げを予定していた電気とガス料金の値上げのほか、安全や環境保護を目的とした車検の基準強化も延期すると述べた。

 

 マクロン政権はこれまで、燃料増税はパリ協定に基づく地球温暖化対策の一環、として訴えてきた。しかし、3日には各野党党首が首相府を訪れて政府の対応を批判したほか、毎週末に繰り広げられるデモの長期化で、観光など経済への悪影響の懸念も高まっていた。政府内には非常事態宣言の強硬路線もあったが、抗議行動には政治的な色彩が薄く、一般市民の共感が高いことから、譲歩を迫られた形となった。

 

先週末のパリ市内での抗議行動の様子
先週末のパリ市内での抗議行動の様子

 

 仏政府によると、燃料増税の6カ月の先送りは20億ユーロ(約2500億円)相当の負担が発生する。ただ、政府支出の削減で2019年度の財政赤字をGDP比2.8%に維持できるとしている。増税延期の間に、フランス全土での市民との対話を今月から来年3月にかけて実施し、増税の意味を市民にひざ詰めで説明するとしている。

 

 フランスのガソリンの小売価格は現在、1㍑当たり約1.6ユーロ、軽油約1.5ユーロの水準。マクロン政権が始まった17年5月にはそれぞれ約1.4ユーロ、約1.2ユーロで、14~25%上昇している。値上げ幅の約3分の2は原油価格の高騰によるもので、残りは今年1月の増税による。1月の増税はガソリン1㍑当たり0.038ユーロ、軽油で同0.076ユーロ増税だった。19年1月にはさらにガソリンで同0.029ユーロ、軽油で同0.065ユーロの増税を予定していた。

 

 市民の怒りは、毎年のように上がる生活必需品価格への不満のほか、社会保障の増税も予定される一方で、マクロン政権は自動車産業をはじめとする産業界には手厚い保護策をとることへの不満が爆発した格好だ。さらに、燃料税増税への反対は、自動車を使う地方都市で盛り上がったように、都市部のエリート層と地方の貧困層との対立も指摘されている。

 

マクロン政権の支持率は急落
マクロン政権の支持率は急落

 

 フィリップ氏は4日、首相府で、抗議行動の象徴となっている「黄色いベスト」の代表団約10人と会う予定だった。だが参加予定者は「公の場に行くと身の危険がある」と主張して面会を拒否した。面会が不調に終わったのは11月下旬に続き2回目。抗議行動には、一部、極左や極右の集団も加わっているが、多くの人々は彼らに扇動されているわけではなく、自分の判断で抗議の意志を表明しており、抗議行動全体を統括する明確なリーダーは不在とされる。「市民の不満」が共通するわけだ。

 

 仏ラジオRTLの3日の報道によると、国民の72%はデモを支持している。野党各党も、19年5月に開く欧州議会選挙を意識し、マクロン氏批判を強めている。極右国民連合(元国民戦線)のルペン党首と、急進左派「不服従のフランス」のメランション党首は議会の解散総選挙を求めている。国民連合はマクロン氏率いる与党・共和国前進を支持率で上回る勢いという。ただ、共和国前進は国民議会(下院)で過半数を握っており、総選挙の可能性は低い、とされる。

 

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