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小田急電鉄がグリーンボンド100億円発行へ。国内鉄道で初めて。個人向け。ただ、資金使途は本来の鉄道事業への設備投資が中心。「どこがグリーン?」の疑問も(RIEF)

2019-01-08 08:07:14

odakyu1キャプチャ

 

 小田急電鉄は7日、国内の鉄道会社として初めてグリーンボンド100億円を、今月31日に発行すると発表した。個人投資家向けで、期間3年、表面利率は年0.05~0.150%の見込み。ただ、調達資金の使途は、車両の新造資金や複々線化、駅のホームの延伸など、本来の鉄道業務への充当が中心で、CO2や環境負荷の低減効果等の「グリーン性」は今一つ明確ではない。

 

 昨年来、国内のグリーンボンド発行では、「業界初」と銘打ったボンドの発行が相次いだ。だが、中には、「グリーン性」に首を傾げるものも含まれていた。今回の小田急のグリーンボンドも「どこがグリーン?」と声をかけたくなる点がある。

 

 たとえば、資金使途の第一にあげている「車両」への使途では、1000形通勤車両、特急ロマンスカー・EXE(30000形)のリニューアル資金、ロマンスカー・GSE(70000形)の新造資金等をあげている。プレスリリースでは、これらは従来の車両に比べ、電力消費量に削減効果があるほか、回生ブレーキの有効活用やLED 車内照明その他の資金に充当する、としている。だが、具体的にCO2排出量や電気使用量がどれだけ削減されるかの試算や説明はない。

 

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 また、「輸送インフラ」として、①東北沢-和泉多摩川間の複々線化事業による輸送力向上②ホーム延伸、ホームドア設置、駅舎および駅周辺の緑化など、駅改修に係る資金 ―等をあげている。いずれも、鉄道事業そのものだ。わずかに、駅の緑化に触れている点に「グリーン性」が感じられる。だがこれも、どれくらいの規模の緑化なのかはわからない。

 

 実際に、小田急のどの駅の周辺に一定規模の緑化施設を建設するスペースがあるのだろうか。それとも駅前花壇程度のことか。さらに、同社がこれまで実施してきた設備投資によって減少した手元資金への充当も含む、としている。「手元資金の補充」をグリーンボンドの目的の一つにしている例はあまりない。

 

 しかし、同社のグリーンボンドにセカンドオピニオンを付与したSustainalytics社 も、日本格付研究所(JCR)も、「合格点」を与えている。JCRに至っては、同社のグリーンボンド予備評価で最上位の評価を出している。

 

 Sustainalyticsは「車両」や「輸送インフラ」への資金使途について、「エネルギー消費量が従来型車両に比べて大きく低下することから、当該車両がエネルギー使用量のさらなる削減に貢献し、その結果、日本の鉄道セクターによる温室効果ガス排出量の削減に資すると考える」と大きく評価している。日本の鉄道全体の削減につながると判断するなら、小田急の新型車両によるCO2削減の寄与度ぐらいの試算は必要だろう。https://www.sustainalytics.com/wp-content/uploads/2019/01/Odakyu-Electric-Railways_Green-Bond-Framework-Overview_SPO_Final_Japanese.pdf

 

 「手元資金の補充」については、小田急自体がプレスリリースに明記している。これに対してSustainalyticsは「調達資金は約2年以内に、全額を充当する計画。未充当資金は、充当までの間、現金または現金同等物として管理される」との一般的な評価としている。小田急自体の説明と微妙に異なるようだ。

 

 線路の増設とホームの延伸についても、「これによっ て鉄道輸送の人気が高まり、持続可能性の高い旅客輸送につながる」とし、「複々線化と踏切の減少 」で鉄道の運営が効率化され、同一線路を使用する車両の数が増え、踏切での渋滞が減ることで道路交通が改善し、渋滞が原因のCO2排出量が減る、としている。これも「どれくらいの効果か」を示してほしい。

 

  JCRは、車両について「リニューアル前と比較して、使用電力・CO2排出量ともに削減を行い、大幅な省エネ化を達成している」と断定している。削減量の試算を踏まえているように思われる。しかし、具体的な数字の紹介はない。https://www.jcr.co.jp/pdf/greenfinance/OdakyuElectricRailway_jp.pdf

 

「輸送インフラ」では、国際資本市場協会(ICMA)のグリーンボンド原則インパクトレポー ティング・ワーキンググループの提言に基づき「人々をより持続可能でクリーンな輸送手段に移動させる」効果を評価したとしている。これも、どれくらいの人が道路利用から鉄道利用にシフトするとの試算に基づくのだろうか。最上位の評価を与えているだけに、かなりの移動効果を踏まえていると思われるが、レポートを読む限り、根拠はわからない。

 

 現在、「玉石混交状態」とされるグリーンボンドについては、EUの欧州委員会がEU共通の基準化を進めているほか、国際標準化機構(ISO)も作業を進めている。その中での議論のポイントの一つは、CO2や環境負荷についての定量的な削減効果が見込めるかどうかという点だ。先進国の鉄道事業の場合、現状、すでにほとんどが電化されている。

 

 その中で、新型車両の導入などが直ちにグリーン性を高めると説明するには、根拠となる交通量全体の動向を推計するデータを伴わないと、グリーン輸送、あるいはクリーン輸送とは呼べない。

 

 さらに、ISOなどの作業では、セカンドオピニオンやグリーン格付の信頼性の確保も中心の課題になっている。今回の小田急のグリーンボンドは個人投資家向けだけに、なおさら、「グリーン性」の確かさが求められる。疑問を残すような形で、無理にグリーンボンドを発行しなくても、これまで通りの「無担保社債」の発行で資金調達は円滑にできる。小田急には「なるほどグリーンだね」という資金調達を展開してもらいたい。

 

https://www.odakyu.jp/news/o5oaa1000001f1jy-att/o5oaa1000001f1k5.pdf