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温暖化の加速による高温現象の影響で、グローバルな労働生産性が減少、2030年までに8000万人分の労働損失と、260兆円の経済的損失が発生。ILOが推計で警告(RIEF)

2019-07-03 18:23:10

ILO1キャプチャ

 

 国際労働機関(ILO)は、地球温暖化が進めば高温により職場での労働生産性が低下し、2030年には世界で8000万人のフルタイム労働に相当する労働の生産性が失われると指摘。その経済的損失は2兆4000億㌦(約260兆円)に達するとの推計結果を公表した。特に、農業と建設の両セクターへの影響が大きいとしている。

 

 ILOの推計は、世界の気温上昇が今世紀末までに1.5℃上昇すると仮定してはじいた。その結果、2030年には世界の労働時間全体の2.2%に相当する労働が高温等の影響で失われるとしている。暑くて働けない、ないしは働いても効率が低下してしまう、というわけだ。

 

 推計のベースは、IPCCが昨年の特別報告で公表した地球の気温上昇を産業革命前からの1.5℃未満に抑制する「1.5℃目標」を前提としており、極めて保守的な推計といえる。農業と建設セクターの影響が大きいのは、いずれも屋外での作業が多いため。農業の場合、世界で9億4000万人が従事しているが、2030年までに熱中症のため、グローバルな労働時間の60%を失う可能性があるとしている。

外で作業する建設労働者は特に影響を受ける
外で作業する建設労働者は特に影響を受ける

 建設労働者も同様で、2030年までに世界全体で労働時間の19%を失う。他の産業セクターでリスクにさらされるのは、環境商品やサービスの提供部門(自然環境での仕事が多いため)、廃棄物回収(外部での作業)、緊急作業、修理作業、輸送、ツーリズム、スポーツ、その他の産業活動等を列挙している。

 広範な産業・セクターにおいて、労働者の生産性の低下と健康悪化のリスクが高まることから、ILOは、各国政府や経営者らに対して、現場で働くことの多い、移民や非正規労働者、ワーキングプア(働く貧困層)への「高温対策を緊急に取る必要がある」と訴えている。

 気温が35℃を超えると、一般的にヒートストレス(熱中症)にかかりやすくなるとされる。そうした状態で労働を続けると、労働者は注意不足や能力低下に見舞われ、作業中の事故の増加など労働生産性が落ちる。また、熱射病にかかって人命にも影響が及ぶリスクがある。

 気温上昇の影響は、地域差も大きい。労働時間の損失がもっとも大きいとみられるのは、インドなどの南アジアと西アフリカ。2030年までにいずれも、約5%の労働時間が失われる。南アジアでは4300万人、西アフリカでは900万人の失業に匹敵する。

世界のヒートストレス(熱中症)の広がり。㊤は1995年、㊦は2085年。
世界のヒートストレス(熱中症)の広がり。㊤は1995年、㊦は2085年。

 所得別でも、最貧国とされるアフリカ等の国々が労働損失による経済的損失がもっとも大きい。低中所得国や低所得国も最悪の痛手を受ける。特に気温上昇に対して対策を十分立てられる資源がない国の影響は大きい。このため、温暖化の加速による高温・熱波の頻発は、現在すでに開いている先進国と後進国等の経済格差を、さらに拡大する負の効果があるとされる。

https://www.ilo.org/global/about-the-ilo/newsroom/news/WCMS_711917/lang–en/index.htm