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環境NGO6団体、バイオマス発電の取り扱いの厳格化を要請。「再エネ発電として疑義ある事業多し」。8つのチェック要件を整備、公表。(RIEF)

2019-07-18 08:25:11

Bio2キャプチャ

 

 FOE Japan等の国内環境NGOは、再生エネルギーのうち、バイオマス発電の多くが、燃料調達で、海外での大規模な森林破壊や土地収奪、生物多様性の破壊、人権侵害のリスクも高いこと、さらにライフサイクルアセスメント(LCA)でみれば大量の温室効果ガス(GHG)を発生させる、として要件の厳格化を求める共同提言を公表した。

 

 (写真は、海外から燃料を輸入しやすいよう、港湾地区に設置された大規模バイオマス発電所の一つ)

 

 共同提言をまとめたのは、環境エネルギー政策研究所(ISEP)、気候ネットワーク、 FoE Japan、地球・人間環境フォーラム、熱帯林行動ネットワーク(JATAN)、バイオマス産業社会ネットワークの6団体。http://www.foejapan.org/forest/library/190716.html

 

 提言では、国内のバイオマス発電について、8つの要件を提示。個々のプロジェクトについて、要件を満たしているかどうかの確認が必要と指摘。提言した要件以外の定義づけや、要件が満たされない事業については、固定価格買取制度(FIT)の対象とすべきではないと述べている。

 

 そのうえで、本来、バイオマス発電は、海外からの資源を大規模に輸入して行うのではなく、国内の廃棄物や未利用材などの地域の資源を活用し、小規模分散型、熱電併給で行われるべき、としている。燃料輸入を前提に大規模バイオマス発電事業を展開する事業計画を除外するよう求めている。

 

パーム椰子の殻を燃料にするPKS
パーム椰子の殻を燃料にするPKS

 

 <環境NGOがバイオマス発電の適正化のために、求める8条件>

 

(1).GHGの排出を十分かつ確実に削減していること。: 燃料生産を含む全工程(土地利用変化、栽培・生産、加工、輸送、燃焼など)でのGHGの排出量が液化天然ガス(LNG)火力発電の50%未満である。

 

(2).森林減少・生物多様性の減少を伴わないこと。:燃料の栽培・生産過程で森林減少(産業植林地への転換を含む)を伴わない。生態系の破壊など、生物多様性への悪影響がない。

 

(3).パーム油などの植物油を用いない。:大規模な土地利用変化を伴い、森林減少などの影響がすでに指摘されているパーム油や大豆油、生産時のGHG排出量が多く、食料との競合の恐れのあるキャノーラ(ナタネ)油などの植物油を用いない。

 

(4).人権侵害を伴っていない。:土地取得を含む燃料生産の過程において住民や労働者の権利が侵害されていない。

 

(5).食料との競合が回避できている。:土地や水などの生産資源の競合も含め、食料と競合しない。

 

(6).汚染物質の拡散を伴わない。:周辺住民の健康に悪影響を及ぼさない。人体に有害な重金属や放射性物質が含まれる燃料を用いない。これらについて適切なモニタリングが行われている。

 

(7).環境影響評価が実施され、地域住民への十分な説明の上での合意を取得している。:発電事業の環境社会影響評価が実施され、地域住民に十分に説明がなされ、合意が得られている。環境社会影響の評価には、燃料生産・栽培も含める。

 

(8).透明性とトレーサビリティが確保されている。:1~7の情報が開示され、燃料に関するトレーサビリティが確保されている。

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各燃料のLCAでのGHG排出量の比較
各燃料や発電形式のLCAでのGHG排出量の比較

 

 (1)は、燃料の栽培時に熱帯雨林伐採や、泥炭地開発などを伴うと、それだけでGHG排出量が増大する。NGOによると、経済産業省資料では、土地利用変化を除外しても、多くのバイオマス発電燃料で化石燃料と同様もしくはそれ以上のGHGを排出している、と指摘している。

 

 熱帯林伐採などの場合、土地利用変化が無いケースに比べてパーム油で約5倍、泥炭地開発の場合はパーム油で約139倍、パーム核殻(PKS)で112倍のGHG排出量になるという。さらに、燃料を遠隔地からの輸入に頼ることで、輸送中に大量のGHG排出量が発生する。

 

 FITでは持続可能性への担保としてFSC(森林管理協議会)、RSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議)などの認証制度を利用している。だが、提言によると、認証は木材や食用・工業利用を想定したもので、燃料としての利用を想定しておらず、GHG排出量の削減の担保にはならない、という。

 

(2)の「森林減少・生物多様性の減少を伴わない」という点では、人類の活動で、生物種のおよそ100万種が、今後数十年間のうちに絶滅する恐れが指摘されており、その直接的な原因で、最も大きいものが土地利用変化とされる。とりわけ東南アジア・南米での熱帯林の減少が指摘されている。

 

 バイオマス発電の燃料として、北米や東南アジアなどから輸入される木質チップやペレットなどの燃料生産のため、海外の一部地域では森林の大規模な伐採が進んでいる。その結果、森林が失われ、野生生物の生息地が消失し、山地の保水能力低下により土砂災害が増えるなど、悪影響が広がっている。

 

森林皆伐で生産される「ブラックペレット」
森林皆伐で生産される「ブラックペレット」

 

(3)の指摘に反してパーム油など植物油をバイオマス燃料に使用すると、生産段階での土地利用変化を考慮にいれなくても、栽培、加工、輸送、燃焼のLCAで、パーム油発電はLNG火力発電と同等か、それ以上のGHGを排出する。パーム油の需要の増大に伴い、熱帯地域でアブラヤシ植林が急増し、生物多様性の喪失につながっている。

 

(4)の人権問題は、バイオマス燃料の原料となる農作物生産のために、地元住民の農地や共有林が失われ、住民の生活基盤が破壊される事態が起きているという。すべてのバイオプロジェクトで、人権侵害を伴っていないかどうかを確認する必要があるとしている。

 

 (5)の食料との競合もすでに起きている。たとえば、パーム油、大豆油、ひまわり油、落花生油、キャノーラ油などの食料だ。これらを発電燃料にすると、土地や水利用において競合が起きる。現時点で農産物に余剰があっても、20年以上の発電期間において状況が変化するリスクもある。

 

 (6)の汚染物質の問題は、バイオマス発電の燃料に、人体に有害な重金属、放射性物質が含まれているリスクだ。現在、バイオマス発電での使用燃料についての放射性物質濃度の基準は特段なく、木材や灰の測定も事業者まかせという。

 

 (7)の環境影響評価では、現在、バイオマス発電は国の環境影響評価制度の対象外。しかし、NGOらは、法的な環境影響評価の義務付けがなくても、自主的に環境影響評価を実施するよう求めている。その際、燃料生産過程での「環境社会影響」の評価も重要だ。

 

(8)は、一連の流れの透明性とトレーサビリティが確保されているかどうか。現在、輸入バイオ燃料に依存する大規模バイオマス発電施設では、東南アジアから輸入するPKSを活用した場合、無条件でFIT対象になっている。だが、PKSの生産過程でのGHG排出量は無視できないレベルにある。

 

 NGOらは、パーム油農園の開発で土地利用が変化するうえ、特に泥炭開発が行われた農園からのPKSは、大量のGHGの排出(土地利用変化がない場合と比べて112倍)を伴う。こうしたバイオマス発電は温暖化対策に逆効果で、FITの対象として不適切、と批判している。

http://www.foejapan.org/forest/library/190716.html