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わが国で建設中・計画中の石炭火力発電事業、市場環境の変化で採算割れし、「座礁資産化」リスク大きい。内部収益率もマイナスに。自然エネルギー財団が報告書で警告(RIEF)

2019-09-13 23:23:05

coal21キャプチャ

 

 公益財団法人自然エネルギー財団は、現在、電力会社等が建設中または計画中の石炭火力発電事業の多くが、電力需要と設備利用率の低下、自然エネルギー発電の増加などの市場環境の変化と、気候変動対策の強化が進むことで、採算割れを起こし、「座礁資産化」するリスクが大きい、との報告書をまとめた。

 

 公表した報告書は「石炭火力発電投資の事業リスク分析:エネルギー転換期における座礁資産リスクの顕在化」と題したもの。

 

「採算割れリスク」を抱える石炭火力発電事業
「採算割れリスク」を抱える石炭火力発電事業

 

 東日本大震災以降、原発稼働停止による電力不足を補うなどの名目で、約2100万kWの石炭火力新増設計画が打ち出された。このうち、約700万kWの計画が中止またはLNGやバイオマス発電等へ計画変更されたが、建設中、または着工前の新増設プロジェクトが今も20基、1,100万kW以上ある。報告書はこれらの事業の採算性を評価した。


 建設・計画中プロジェクトの多くは、設備稼働率を80%~90%と想定している。だが、政府の電力広域的運営推進機関(OCCTO)の推計でも、2028年までに最大電力需要が3.7%減少(2018年比)する一方、石炭火力の設備容量は20%増加する。これらにより、石炭火力の設備利用率は全国平均で73.2%から69.5%へ低下する、としている。

 

 設備利用率が10~20%下がることは、その分、発電収入は低下する。石炭火力発電投資の実施に必要な内部収益率(IRR)は、最低8%、一般には10%とされる。報告書は、新設の石炭火力発電投資(130万kW USC発電方式)をモデルに、設備利用率85%、1kWh当たり9.5円の売電単価、石炭1㌧=11000円の燃料価格、稼働年数40年、炭素税未導入、の前提で試算した。

 

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  その結果、IRRは最低水準に近い8.7%となった。ただ、設備利用率を2018年の全国平均73%と設定すると、IRRは一気に3.9%にまで下がる。設備利用率は85%のままでも、売電単価が8.0円/kWhまで低下すれば、IRRは3.3%になる。設備利用率73%、売電単価8.0円では、マイナス3.5%となる。採算割れどころか事業として成り立たない。

 

 また直近では、石炭価格も、LNG価格のほうが安くなり、石炭との価格差が逆転するというケースも起きている。今後もガス価格低下の傾向が続けば、ガス火力の設備利用率が上昇し、石炭火力の設備利用率はさらに低下することになる。

 

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 政策面では、パリ協定の目標の強化がグローバルな政治課題にあがっている。わが国でも今後、気候変動対策の強化は避けられない。設備利用率85%を前提としても、CO₂排出量1㌧当たり2000円の炭素税が導入されると、IRRは2.8%に低下する。設備利用率73%では、マイナス4.5%だ。

 

 報告書は、これらの試算を踏まえて、今後の石炭火力発電投資の事業リスクとして、①電力需要の低下②自然エネルギーのコスト低下③設備利用率の低下④電力卸売価格の下落⑤石炭価格の上昇⑥気候変動対策による規制強化等を列挙している。

 

 そのうえで、「これらの要因により、現在進められている新設プロジェクトは、採算割れを引き起こし、座礁資産化する大きなリスクが大きい」と警告している。

 

https://www.renewable-ei.org/activities/reports/20190913.php