米国の石炭火力発電の減少加速。今年は8月まで毎月連続減、うち6回は2ケタ減。8月18%減。ガス火力、再エネにコスト面で太刀打ちできず。トランプ政権の「石炭復権」の失敗明白に（RIEF）
2019-11-09 23:00:59
米エネルギー情報局（EIA）によると、米国での石炭火力発電所の減少が加速している。８月の石炭火力発電量は前年比18%減で、１月以降８か月連続減少するともに、10％以上の減少月は6番目となった。昨年は１０%以上減の月は1回もなかったのに比べると加速が顕著だ。1～8月の累積でも前年比13.9%減となっている。
石炭火力の減少は、全面的な閉鎖だけでなく、電力会社が石炭火力を操業短縮し、その分を低コストのガス火力や、再生可能エネルギー発電の操業に切り替えるケースが多いという。米シンクタンクの「Institute for Energy Economics and Financial Analysis（IEEFA）」は「こうしたケースは石炭生産業にとっては悪い兆候」と指摘している。
石炭火力発電の減少は全米で広がっている。石炭火力を発電に利用している45州のうち、30州で前年比10%以上の減少を記録した。特に著しいのが南東部地域だ。
たとえばIEEFAレポートでは、バージニア州は前年比62%減で、エネルギー源に占める石炭火力の比率は前年の11%からわずか4%に下がっている。フロリダ州でも同31%減、アラバマ州31%減、南カロライナ州とテネシー州は各23%減、南東部州全体で21%減になっている。
歴史的に石炭依存の高い中西部やオハイオ川流域州でも、石炭火力依存度の低下が続いている。たとえばイリノイ州は8月までで17%減、オハイオ、ペンシルバニア州は各15%減と二ケタ減少が続いている。石炭鉱山が多く、もっとも石炭依存の高いとされるケンタッキーと西バージニアの両州でも、ともに8%減となっている。
これらの石炭依存地域での石炭離れの拡大は、先日、表面化した米最大の非上場石炭業企業のマレー・エネルギー社の連邦破産法11条申請の原因の大きな一因とされる。http://rief-jp.org/ct4/95600?ctid=72
イリノイとインディアナの中西部両州での下落の主因は、両州とも、競合する風力発電の進展とされる。イリノイ州での風力発電量の増大は前年比22%増で、発電市場でのシェアも8%近くにまで上がっている。インディアナ州の風力発電量は同16%増で、シェアは6%。
IEEFAによると、発電停止に追い込まれた石炭火力は、今年だけですでに57基で、発電量は14GWに達している。これらは発電中の石炭火力発電総量の5.8%を占める。今年の減少量が今後も続くと約16年で石炭火力はゼロになる計算だ。今年のピッチがさらに加速すると、石炭火力ゼロは10 年前後で達成される可能性もある。
最大の要因は、発電コストがガス火力、再エネ発電に追い抜かれている点だ。したがって、燃料を提供する石炭採掘産業の将来も極めて厳しい。2016 年にいったん破綻し民事再生した最大の石炭鉱山会社のPeabody Energy Corpは、Arch Coalと統合し生き残りをかける動きが出るなど、業界の再生取り組みが起きているが、マレー・エネルギー社を含め過去３年間ですでに11の石炭鉱山会社が破綻しており、歯止めがかかりそうもない。
石炭鉱山業界では海外輸出への期待もある。だが、石炭の輸出価格は最近、下落が顕著になっている。国際エネルギー機関（IEA）の推計では、米国の輸出量は2018年の1億5660万㌧から、2020年には7550万㌧へ半減以下になるとみている。IEEFAは「国内需要減と輸出価格下落の『ワン・ツーパンチ』はマレー社が破綻した最大の要因だ」と指摘している。
全米の総発電に占める石炭火力の比率は、20年前の2008年にはほぼ半分の48 %あった。だが、2022年には22%に縮小する見通し。これは市場と消費者が選んだ結果だ。そのことは、就任以来、「石炭復権」を掲げてきたトランプ政権のエネルギー政策の失敗の証明、といえる。
https://ieefa.org/ieefa-update-data-shows-u-s-shift-away-from-coal-fired-generation-is-intensifying/
Research Institute for Environmental Finance