SBTi(科学的根拠に基づく排出削減目標)の賛同企業、この1年半で倍増。グローバルに714社。日本勢は1割強の82社。企業に「2℃目標」設定広がる。さらなる拡大には規制強化論も(RIEF)
2019-12-05 23:47:58
地球の気温上昇を「2℃未満」に維持する科学的な知見と整合する「科学的根拠に基づく排出削減目標(SBTi)」を、自社の経営に取り入れる企業数が急増している。「SBTi-2019年進捗レポート」によると、この1年半で倍増、グローバルで686社(直近714社)に達した。このうち日本勢は1割強の82社。SBTi採用企業は先進国で増え、産業別では食品、飲料メーカー等で目立っている。
SBTiは2015年、CDP、世界資源研究所(WRI)、国連グローバル・コンパクト、WWFの共同イニシアティブとしてスタート。企業が気候変動への対応として、科学的知見と整合した削減目標やビジョンを設定することを推進してきた。
立ち上がり以降、2018年3月までの3年間で、SBTiに賛同した企業は334社だった。それが、その後の1年半の間に352社が新たに賛同し、今年10月末時点で合計686社に倍増した。月平均18社の賛同が得られたことになる(最初の3年は月平均9社)。賛同企業数のスピードが倍増している。その後も増え、11月末時点で714社になっている。
10月末までの賛同企業686社中、SBTiから公式に認定された企業は285社。賛同企業全体の企業価値(時価総額)は10兆㌦(約1090兆円)に達する。
これらの企業のScope1(直接排出量)と同2(光熱費などの間接排出量)を合わせた年間CO2排出量は7億5200万㌧。石炭火力発電所193基分に相当する。これをSBTiに基づき、基準年から2℃目標に抑制すると、35%削減(2億6500万㌧)、石炭火力68基分を閉鎖できることになる。
こうした削減を実現するために、CO2排出回避事業への投資額は180億㌦に上ると想定される。またScope3(出張や会議等費用)をSBTi目標に適合させると、CO2排出量39億㌧の排出量となる。これは自動車8億2800万台の年間排出量に相当する。
SBTiのすべての目標を達成すると、年間の再エネ電力に換算して90TWhに達するという。この電力量は1100万の家庭の年間電力消費量に相当する。
また現在の賛同企業の92%は、自らのSBTi目標を、取引先を含めたバリューチェーン全体に適用を求めているという。レポートは、こうした傾向はサプライチェーン、消費者を含めて2℃目標に対応する意識を広めることにつながると期待している。
これまでのところ、SBTiに取り組む企業は、途上国よりも先進国に多い。また産業別では、特に消費者に気候変動、温暖化リスクをアピールし易い食品、飲料水メーカー等が多いという。ソフトドリンクのCoca-Cola、食料品のNestle、アルコール飲料メーカーのDiageoなどがその代表だ。ただ、途上国のほか、重化学産業、自動車などの企業の賛同は限定的だ。
SBTiはこうしたギャップを埋めていくことが、今後重要、としている。SBTiへの賛同、同目標設定によって、企業が自発的にCO2排出量を長期的に削減する動きが高まる一方で、グローバルベースでのCO2排出量は依然、増加しているのも事実だ。
排出量増加による気候変動の激化は加速しており、企業の対応にも地域差や産業差などはむしろ拡大しているとの指摘もある。こうしたギャップを埋めるには、SBTiによる先行企業をさらに後押しする義務的な削減促進が必要との声も高まっている。
SBTiで企業のCO2削減目標を設定するオランダの食料品メーカーRoyal DSM のサステナビリティ部門担当Jeff Turner氏は、「政府政策の重要な変更無くして、パリ協定の目標達成はできない。サプライチェーン全体の目標と行動を引き上げるには、規制による後押しが必要」と指摘している。
https://sciencebasedtargets.org/wp-content/uploads/2019/12/SBTi-Progress-Report-2019.pdf