HOME11.CSR |10月のGPIF理事長「不適切関係処分」に「疑惑の取り違え説」浮上。被害を受けた女性職員が「不適切な関係を迫ったのは別の理事」と告発。だとすると、お粗末なガバナンス体制だ(RIEF) |

10月のGPIF理事長「不適切関係処分」に「疑惑の取り違え説」浮上。被害を受けた女性職員が「不適切な関係を迫ったのは別の理事」と告発。だとすると、お粗末なガバナンス体制だ(RIEF)

2019-12-07 08:46:56

GPIF22キャプチャ

 

 今年10月中旬に、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の高橋則広理事長が、部下の女性職員との不適切な関係等を指摘する内部通報を適切に処理しなかったとして、GPIF経営委員会から懲戒処分を受けた問題が混迷している。その後、GPIFのガバナンス課題が浮上しているためだ。

 

 東洋経済オンラインの報道(チーム「ストイカ」、11月21日)によると、発端となったのは、GPIF経営委員会(平野英治委員長)が10月18日、高橋理事長を部下の女性との不適切な関係疑惑を指摘する形で同理事長に対し減給(20%)6カ月の処分を決めて公表した件だった。http://rief-jp.org/ct4/95150?ctid=74

 

 だが、東洋経済の報道では、同処分は「不適切な関係」の事実確認はできず、理事長を告発する怪文書が届いていながら、監査委員などに内部通報しなかったことを処分理由とするなど、「経営委員会は枝葉の理由をつけて理事長処分に踏み切った」と指摘している。

 

「濡れ衣」を着せられた(?)高橋理事長
「濡れ衣」を着せられた(?)高橋理事長

 

 確かに、GPIFのプレスリリースを読む限り、「不適切な関係」については明確には示さず、「内部通報を監査委員や経営委員長等に速やかに報告しなかった」ことを理由としている。その一方で、「疑念を招きかねない行為を重ねた上」と表記し、「不適切な関係」を匂わせるなど、企業・組織の通常の処分報告とは異質な内容ではある。https://www.gpif.go.jp/info/1018_seisai_shobun.pdf

 

 ところが、対象とされた女性の代理人弁護士から、GPIFに対し、11月11日付で、このプレスリリースに抗議する告発状(通知書)が届いたという。それによると、「この女性に不適切な関係を迫ったのは別の理事」で、その執拗なセクハラに耐えかねて理事長に相談し、社内に知られまいと社外で相談していたところ、それを「密会」と決めつける匿名の怪文書がGPIFなどに送られてきた、としている。

 

 「不適切な関係」が、高橋理事長ではなく、別の理事(GPIFには理事長のほか理事は2名だけ)だったとすれば、GPIF経営委員会は方向違いの処分をしたことになる。本サイトも、GPIFのリリースを元に記事を配信したので、「誤報」ということになる。

 

存在感が問われるGPIF経営委員会の平野英治委員長(元日銀)
存在感が問われるGPIF経営委員会の平野英治委員長(元日銀)

 

 女性の代理人弁護士の通知書が指摘する詳細な点等については、東洋経済の報道を参照していただきたい。https://toyokeizai.net/articles/-/315284

 

 本サイトが指摘したい点は、今回の「騒動」で、160兆円の国民の公的年金を預かるGPIFのガバナンス体制が、極めて脆弱であり、「私的な意向」で内部判断が左右される危険性が露呈したことだ。経営委員会、理事という要職にある人々も、天下りや外部からの「政治任命」等により、資金運用には「素人」同然の人が少なくないようだ。

 

 報道の指摘では、GPIF内部に出回った怪文書や怪写真を踏まえて、経営委員会は「疑惑」の相手を取り違えたことになる。そうだとすると、一般企業ではあり得ない基本的なミスである。加えて、問題の理事のほかのもう一人の理事についても、報道は「政治任命」を指摘。「騒動」が、そうした理事たちの留任工作と関連している可能性にまで言及している。

 

 160兆円の国民資産の資金運用権限を担う経営層が、地位を利用して「不適切な関係」を強要したり、それを隠蔽する怪文書工作に励んだり、さらには自らのポスト維持の画策に勤しんだりしているようだと、GPIFがアピールするESG重視の投資姿勢とは、大きくズレていることになる。さらに、そうした「私的な思惑」に加えて、「任命者や、天下り元への忖度」等が運用姿勢に反映しないか心配になる。「わたしの年金、危うし」である。

 

 ESGのG(ガバナンス)が機能しない組織に、ESG運用を任せられるわけはない。ましてや「ユニバーサルオーナー」などと、おこがましく語ってもらいたくもない。GPIFは改めて抜本的な組織改革が喫緊の課題といえる。

 https://toyokeizai.net/articles/-/315284

                      (藤井良広)