HOME10.電力・エネルギー |経産省、2030年度目標の「エネルギー基本計画」改定素案公表。再エネ「36~38%」、化石燃料発電全体で41%維持、原発「20~22%」、「脱炭素」に程遠く「原発依存」明確に(RIEF) |

経産省、2030年度目標の「エネルギー基本計画」改定素案公表。再エネ「36~38%」、化石燃料発電全体で41%維持、原発「20~22%」、「脱炭素」に程遠く「原発依存」明確に(RIEF)

2021-07-21 21:52:56

keisann003キャプチャ

 経済産業省は21日、2030年度を目標とするエネルギー基本計画の改定素案を公表した。脱炭素化に向けて、総発電量に占める再生可能エネルギーの割合は36~38%に引き上げる一方で、現在6%分の稼働でしかない原子力発電で20~22%を賄うとしている。石炭火力も19%に維持し、「脱炭素化」には程遠い。長年、再エネを横に置き、石炭主力で進めてきた日本のエネルギー利用の構造転換にはつながらない内容だ。

 政府は「2050年ネットゼロ」を目指し、2030年度の温室効果ガス排出量を46~50%(2013年度比)削減を目標としている。温室効果ガス排出量の大層がエネルギー分野から生じることから、今回の改定「エネルギー基本計画」素案の成否は、国の目標達成の妥当性に直結する。

 主要電源のうち、再エネは現行の「22%~24%」から10ポイント以上引き上げる「36%~38%」とした。19年度の現状からは倍増となる。石炭、天然ガス、石油の化石燃料発電は、19年度で合計76%と大半を占める。このうち石炭は現状の32%から19%へと13ポイント減少するが、発電源別のウエイトでは、天然ガス(20%)とともに、再エネに次ぐ多さを維持する。30年度の化石燃料全体のウエイトは41%を維持する。

エネルギー基本計画案
エネルギー基本計画案

 欧州等では石炭火力発電からの脱却が相次ぎ、既存の石炭火力はCCUS(カーボン回収利用貯留)設備の敷設を条件とするなどの「脱炭素化」が急ピッチで進んでいる。これに対して、今回のわが国の基本計画案では「生身の石炭火力」を引き続き約2割は維持する内容で、とても「脱炭素」とはいえない。

 原発については現行計画の「20%~22%」をそのまま維持するとした。しかし、東京電力福島第一原発事故後に再稼働した原発は10基だけ。安全性見直し等の影響で、現状の稼働原発の発電量は6%止まり。計画素案の水準を実現するには、原発稼働をさらに17基追加し、さらにそれぞれの設備利用率を80%水準とする必要がある。しかし17基のうち8基は、新たに60年運転の許可を得なければ2030年には運転できなくなる。

 「絵に描いた原発20%~22%」目標なのだ。同様に、「再エネ36%~38%」は、これ以上増やしたくても、太陽光発電や風力発電等の立地不足や系統接続のコスト等がネックで、これ以上増やせないとしている。しかし、系統接続問題は既存電力の権限維持を重視した政府の送配電政策の失敗によるものだ。本来は、再エネ接続のボトルネックを打開する政策を打ち出すべきだろう。

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 脱炭素の有力手段と喧伝されている水素・アンモニアは、2030年度には間に合わない。両方合わせて「1%」と存在感を何とか示した格好だ。電源転換不足のつじつま合わせは省エネで補うという。19年度で1,655万klの省エネ規模を、 素案では現行計画よりも1000万kl以上、上積みした 約6,200万klとした。「省エネ国民運動い」で、何とか凌ごうということのようだ。

 かつて、日本は再エネ発電では欧州よりも先行していた。だが、経産省が原発維持のために「再エネ潰し」に近い政策を乱発してきた。現在も、既存電力優先の「容量市場」取引や、排出権取引導入阻止のための「非化石証書取引」等の「小細工」を積み重ね、経済全体の構造改革を市場ベースで推進する取引制度の導入を阻止してきた。

 「市場経済」とは異質な経産省の「いびつなエネルギー政策」のツケがここにきて露呈しつつある。国内のエネルギー基本計画は国内の事情だけで決めればいい、という時代では、もはやない。社会主義の中国が今月から、すでに電力取引に照準を示した全国版の排出権取引制度を稼働させている。これに対し、わが国のエネルギー基本計画案では市場取引に触れていない。


 EUは、化石燃料依存のエネルギー構造を踏まえた国からの輸入品に課税するカーボン国境調整メカニズム(CBSM)の法制化を進めている。米国議会でも同様の法案が提案された。温暖化問題はグローバル課題なので、最貧途上国等以外では、一国だけ化石燃料に依存し続けるというわけにはいかないのだ。

 今回の経産省の基本計画づくりのプロセスも「途上国」以下、と指摘せざるを得ない。発電技術の現状評価と今後の技術革新、他国との技術比較等については行政判断の前に、専門家の意見を広く集合するのが欧米先進国のパターンだ。そうした科学的知見を踏まえたうえで、社会・経済的配慮、あるいは国際的なバランス等を評価に加える政策判断を加味する方向への転換が求められている。

 主要な途上国でも、政策方針の科学性、透明性への取り組みは進んでいる。10年一日のごとく、「有識者」と称する業界団体代表や、御用学者中心の審議会で「お墨付き」を得て案を取りまとめても、国際的には尊敬されないし、通用もしない。「脱炭素」のためには、経産省主導のエネルギー政策の混迷から脱却する必要がある。「脱経産」だろう。

                           (藤井良広)

https://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/2021/046/046_004.pdf

https://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/2021/046/046_005.pdf