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金融庁「サステナブルファイナンス有識者会議」、第二次報告書発表。企業のサステビリティ情報開示はISSB成案待ち。タクソノミーには今回も判断示さず。トランジションは政府案「丸飲み」(RIEF)

2022-07-18 00:41:47

FSAキャプチャ

 

 金融庁は13日、「サステナブルファイナンス有識者会議」の第二次報告書を公表した。昨年6月公表の第一次報告書に次ぐ。報告書は、企業開示の充実、市場機能の発揮、金融機関の機能発揮の3分野を柱とし、このうち企業開示では気候変動対応を含むサステナビリティ情報について、有価証券報告書にサステナビリティ情報の「記載欄」の新設を正式に提言した。国際サステナビリティ開示審議会(ISSB)が進める気候・サステナビリティ情報開示案が成案化すると、それらの具体的開示内容についても有価証券報告書に追加することを検討するとした。

 

 サステナビリティ関連情報についての有報記載については、金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループが今年6月に公表した報告内容を盛り込んだ。新たに新設する「記載欄」はTCFD勧告の提言を踏まえ、国際的なフレー ムワークと整合的な「ガバナンス」、「戦略」、「リスク管理」、「指標と目標」の4要素に基づく開示を行うとしている。

 

 ただ、このうち「ガバナンス」と「リスク管理」は、企業がサ ステナビリティ情報を認識し、その重要性を判断する枠組みとなることから、全ての企業が開示するが、「戦略」と「指標と目標」は各企業が重要性を判断して開示するとした。ワーキンググループの提案を丸飲みした形だ。この点はEUや英国等の政策対応、さらにはISSB案が、4構成要素すべてを開示の基本とするスタンスである点に比べ、明らかに「限定的」だ。https://rief-jp.org/ct4/125803?ctid=71

 

 たとえば、英金融当局の金融行動監視機構(FCA)は、「TCFD勧告からすでに5年が経過しており、開示される情報を活用するユーザーの必要性もさらに多様になっている」と指摘。TCFDの4要素のうち、「戦略」要素では、発行体は気候関連リスクとオポチュニティにどう対応しているかという、追加的かつより個別の情報を増やし、さらに顧客やサプライヤーと連携しようとしているか等の情報も開示することを求めている。https://rief-jp.org/ct4/126515?ctid=71

 

 これに対して、有識者会議の報告書は、今後のISSB基準の方向性を踏まえ、「速やかに具体的開示内容を検討し、 その後、当該具体的開示内容を有価証券報告書の『記載欄』へ追加する検討を行うことが考えられる」とし、ISSB基準の成案待ちの姿勢を示している。「5年前」のTCFD提言の半分しか盛り込まず、残りは今後のISSBの成案待ちというスタンスは、専門家で構成する「有識者」の判断としては、極めて「受け身」と言わざるを得ない。

 

 社会的分野の開示項目としては、人的資本の情報開示として、中長期的な企業価値向上における人材戦略の重要性を踏まえた「人材育成方針」や「社内環境整備方針」、各企業の事情に応じて、「同方針」と整合的で測定可能な指標の設定、目標・進捗状況、女性管理職比率、男性の育児休業取得率、男女間賃金格差を有報の開示項目にするとした。

 

 一方、欧米金融当局は、ESGやサステナビリティをうたいながら、それらを投資評価・判断に十分に盛り込まない金融商品・サービスに対して、厳格な「グリーンウォッシング」対策を検討・実施に移している。この点で報告書は、「ESG投資に取り組む資産運用会社は、適切なESG投資を実行するために必要な組織体制の構築を進めつつ、自 社としての明確なESG投資に関する方針を策定し、運用プロセスの高度化に向 けて継続的に取り組むことが期待される」等と、一般的な取り組み姿勢の問題との評価にとどめている。

 

 実際に市場で起きているウォッシュ現象の背景には、ESG、サステナビリティ分野の評価や分析等を踏まえた金融商品・サービスを規制・監督する立場の金融当局の認識・対応不足、さらに、あいまいな市場基準、第三者評価機関の力量不足等といった、政策と市場インフラの未対応、未成熟な実態が存在すると指摘される。だが報告書は、そうした点には触れていない。https://rief-jp.org/ct4/126153?ctid=71

 

 ESG情報のインフラの一つとされる情報プラットフォームについては、第一次報告書を受けて、昨年10月、日本取引所グループ(JPX)がグリーンボンド等のESG債の発行関連情報等を集約する「情報プラットフォーム」を宣言、近く立ち上げる。今回の報告書は同プラットフォームでの開示情報をESG債のほか、ESG関連投資信託などの他の金融商品へと順次拡大し、さらに温室効果ガスの排出量など、企業のESG データも集約することを期待するとした。

 

 ESG情報プラットフォームの整備・拡大は望ましい。だが、これらのESG情報の基準となる、ESG債基準の妥当性、対象事業の妥当性、第三者評価の妥当性等があいまいなままだと、集めた情報の比較評価は十分には進まない。有識者会議は第一次報告書で、EUがそうした事業評価の基準として整備を進めるタクソノミーについて「評価と課題」を両方提示し、様子見のスタンスをとったが、今回の報告書でも「引き続き検討を進める」と判断を先送りした。

 

 その一方で、政府が主導するトランジションや「GXリーグ基本構想」については、政府の方針を強調する形の紹介をしている。しかし、グリーンやESG、サステナビリティ等について、国内では明確な定義づけと法的な評価や対応等があいまいな状況のままである一方で、それらへのトランジション(移行)という、よりあいまい性が強まるはずのトランジション政策や「GXリーグ」構想等が抱える課題の指摘や提言等は、報告書には見当たらない。

 

 「GXリーグ」への対応では、政府は、取り組み企業が自ら掲げた目標に達しない場合は、カーボン・クレジッ ト市場を通じた自主的なクレジットの取引を行うとしている。だが、EUや中国、韓国等で導入されている取引市場はいずれも法的義務を背景としている。

 

 そうした義務があるがゆえに、未達の場合のクレジット取引需要が生じるが、自主的目標の設定と自主的取引の推奨では、取引需要は自主的にしか生ぜず、適切な市場価格の形成につながらない。この点は、環境経済学の初学の学生でも理解できる点と思われる。だが、「有識者会議」は政府の方針をそのまま記載するだけにとどめている。「残念な会議」と言わざるを得ない。

                           (藤井良広)

 

「サステナブルファイナンス有識者会議」メンバー

<座長>水口剛・高崎経済大学学長

<メンバー>

足達英一郎・日本総合研究所常務理事

井口 譲二・ニッセイアセットマネジメント・チーフ・コーポレート・ガバナンス・オフィサー

伊藤文彦・全国銀行協会企画委員長(三井住友銀行常務執行役員)

小野塚惠美・「科学と金融による未来創造イニシアティブ」代表理事

岸上有沙・「日本サステナブル投資フォーラム」運営委員

小沼泰之・東京証券取引所専務執行役員

渋澤健・コモンズ投信会長

嶋津智幸・日本損害保険協会一般委員会委員長 (三井住友海上火災保険専務執行役員)

角英幸・生命保険協会一般委員長 (住友生命代表執行役専務)

高村ゆかり・東京大学未来ビジョン研究センター教授

鳥海智絵・日本証券業協会「証券業界における SDGsの推進に関する懇談会委員 (野村證券専務執行役員)

手塚宏之・JFE スチール専門主監(地球環境)

長谷川知子・日本経済団体連合会常務理事・SDGs本部長

林礼子・BofA証券副社長

藤井健司・グローバルリスクアンドガバナンス合同会社代表社員・金融庁総合政策局参事

吉高まり・三菱UFJリサーチ&コンサルティングフェロー プリンシパル・サステナビリティ・ストラテジスト

<オブザーバー>

財務省、経済産業省、環境省、日本銀行

 

https://www.fsa.go.jp/news/r4/singi/20220713/01.pdf