HOME |日本のアンモニア・石炭混焼戦略は、再エネよりコスト高で非経済的手段。温室効果ガス排出削減効果も限定的。エネルギー安全保障に懸念。米BNEFがレポートで警告(RIEF) |

日本のアンモニア・石炭混焼戦略は、再エネよりコスト高で非経済的手段。温室効果ガス排出削減効果も限定的。エネルギー安全保障に懸念。米BNEFがレポートで警告(RIEF)

2022-10-06 01:00:11

BNEF002スクリーンショット 2022-10-06 002350
ブルームバーグNEF(BNEF)は日本政府が推奨し、電力各社が目指している既存の石炭火力発電所のアンモニア混焼戦略について、排出量削減効果、安全性とエネルギー安全保障への懸念、経済性の3つの観点から検証した報告書を公開した。それによると、「日本にとってアンモニアと石炭の混焼は、電力部門の排出量削減に向けて経済性の高い手段にならない」という結論を示している。
 
 BNEFによると、混焼率50%のクリーンアンモニアを用いると日本の改修された石炭火力発電の平準化発電コスト(LCOE)は2030年時点でMW時当たり少なくとも136㌦になる。さらに2050年までにクリーンアンモニア専焼とする場合、LCOEはMW時当たり168㌦以上になると試算。いずれの値も、洋上風力発電、蓄電池併設型の太陽光・陸上風力発電等のエネ発電のLCOEを大きく上回る。
BNEF001スクリーンショット 2022-10-06 002315

 

 アンモニア混焼技術の採算を合わすためには、日本の炭素税が大幅に引き上げられる必要がある。2030年にクリーンアンモニア20%混焼で採算が合うためには、炭素価格は少なくともCO2で1㌧当たり300㌦が必要と推定。2050年までのアンモニア専焼火力の場合は、炭素価格は159㌦程度。現在、日本の炭素価格(地球温暖化対策税)は3㌦以下なので、高率の炭素価格の設定は日本経済全体に大きな負担を強いることになる。
BNEF003スクリーンショット 2022-10-06 004603
 レポートの主要執筆者、BNEFの日本電力市場アナリスト、菊間一柊氏は「アンモニア混焼のための石炭火力発電所改修には、特に高い混焼率の場合、膨大な費用が掛かる。(したがって)日本は電力部門の脱炭素化には再エネの導入加速が適すだろう」と指摘している。
 さらに「現在、石炭火力発電はベースロード電源として使われているが、アンモニア混焼技術のベースロード電源としての使用は採算性の低さから現実的ではない」と付け加えている。
 日本政府や電力会社がアンモニア混焼を推進する理由は、現状の石炭火力設備を維持したまま、CO2排出量を削減できる点にある。しかし、アンモニアの燃焼からは、CO2の273倍(100年単位)の温暖化係数(GWP)がある亜酸化窒素(N2O)が発生することが知られている。CO2についてもBNEFの分析では、混焼率50%の場合でCO2排出量は天然ガスを用いたコンバインドサイクル発電からの排出量と同程度であると指摘している。
 さらに日本産クリーンアンモニアは、オーストラリア産のグリーンアンモニアや中東産ブルーアンモニアに比べて価格が高いため、日本政府の進めるアンモニア混焼を導入していくと、結局は新たなエネルギーの輸入に依存するようになり、日本のエネルギー安全保障にとってリスクが高まると指摘している。
BNEFの分析は、難しいモデルを使わなくとも現在の再エネデータ、アンモニア等の基本データを踏まえて計算すれば、はじき出せる数値である。米欧等はそうした試算・評価に基づき、再エネ事業の経済性と発電出力の高さ、CO2フリーの要件を選択し、脱炭素戦略の柱に据えている。

 

 ところが、日本政府がコスト高で排出削減効果も再エネに比べると限られるアンモニア混焼にシフトするのはなぜか。既存の石炭火力施設を維持したい電力会社の意向か、海外でのアンモニア利権を確保したい商社の意向か、あるいは、これまでの火力重視のエネルギー政策を「失敗」として認めたくない経産省・資源エネルギー庁の都合なのか。
 水は低いところ(再エネ)に流れるのに、あえて、アンモニアという高いコストの産物に固執しているとしか見えない。コストアップ分についても補助金(税金)でまかなえばいいと考えているのかもしれないが、すでに国民の担税力は乏しくなっている。「間違ったエネルギー政策」が、この国の経済力、国際競争力をますます劣化させていく。
                       (藤井良広)
詳しく見る