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米環境保護庁(EPA)。2027~32年の自動車CO2排出規制案公表。販売の中心となる軽量乗用車のCO2排出量を現行規制比56%削減。32年のEV新車販売比率67%目標を設定(RIEF)

2023-04-13 15:51:57

EPA001キャプチャ

 

  米環境保護庁(EPA)は12日、自動車の新しいCO2排出規制を導入すると発表した。米国市場での販売の中心である軽量乗用車について27年~32年モデルのCO2排出量を56%削減(26年モデル比)に、中量乗用車は同44%減に設定するほか、32年モデルでの電気自動車(EV)販売比率を軽量乗用車で67%、中量乗用車で46%とすることを目指すとしている。トラック等の重量車両については、32年モデルの営業車の50%をゼロエミッション車(ZEV:EV、燃料電池車)とすることなどを提案した。CO2排出量の削減に加えて、窒素酸化物や微小粒子状物質(PM2.5)な排出規制も強化する。

 

 EPAは5月初旬に規制案に対するヒアリングを開く。規制案の成案化は2024年になる見通し。米自動車市場では軽量乗用車が新車販売全体の売上台数の60%を占めるとされる。今回の規制案は乗用車販売の中心となっている軽量乗用車に対する規制を強化し、EV化率を7割近くにまで引き上げることを求めている。

 

 乗用車のCO2規制については、EUが2035年以降の新車販売についてガソリン車等の内燃機関自動車の販売を禁止(例外は「e燃料車」)し、EV普及を推進する政策を決めている。米国でもカリフォルニア州は35年にEVのみの販売に切り替える方針を示している。連邦政府の方針が定まったことで、米国の自動車市場もEV主導が鮮明になった。日本市場での排ガス規制強化が問われる。

 

 EPAは今回の規制案が実施されると、2027年~2055年までの間に約100億㌧のCO2排出量の削減が可能になると試算している。同削減量は2022年の全米全体のCO2排出量の約2倍に相当する。またガソリン需要が減ることで、約200億バレルの石油輸入を減少できるとしている。CO2削減による気候災害等の緩和や、PM2.5削減による健康被害の減少等による全体的な経済社会コストの削減は少なく見積もって1兆㌦に達すると推計している。

 

 規制車分類別でみると、軽量・中量乗用車の場合、2027年~55年期間中のCO2削減等で生じるネットベネフィットは8500億㌦~1.6兆㌦と推計した。EPA長官のMichael S. Regan氏は「過去に例のない野心的な排ガス削減基準の提案によって、バイデン政権による大気汚染と気候汚染における重要な削減を実現できることになる」と評価している。

 

 EPAはバイデン政権発足後、EVの新車販売が増え、売上は3倍増していると指摘。すでに全米でのEV用の電力チャージングスポットは2020年から約4割増の13万か所以上に増えている。昨年成立したインフレ抑制法(IRA)により国内でのEV生産や蓄電池生産に対する政府補助金や税額控除等のインセンティブ政策が増やされたことで、1200億㌦以上の国内民間投資が動き出しているという。

 

 フォード、GM等の自動車メーカーで組織する業界団体の「Alliance for Automotive Innovation」のCEO、John Bozzella氏は「EPAの規制案はこれまでの規制に比べても『攻撃的』だ。バイデン政権が2年前に掲げた『2030年EV化50%』の公約を上回る。チャレンジングな目標の達成には、製造へのインセンティブ、税控除等の措置が必要だ。問題は、できるかどうかではなく、いかに早く成し遂げるかだ」と述べ、目標達成は政権の政策支援次第との考えを示した。

 

 現行の米自動車販売市場でのEV比率は今年第一四半期で7.2%。昨年の5.8%から伸びてはいるが、32年までの約10年で、軽量乗用車の販売率を7割近くにまで引き上げることになる。自動車業界はIRA法に基づくインセンティブ付与(アメ)と、EPAの排ガス規制強化案(ムチ)の両政策によって、米自動車市場のEV化促進に対応していくことになる。

 

 米市場で競争する日本の自動車メーカーもEVシフトを早急に強化することになる。トヨタ自動車は25年から米国でEVの現地生産を始める方針を打ち出しており、ホンダも26年から米国製EVの販売を実施する。しかし、日本国内での自動車規制は米欧のEVシフト化から大きく遅れている。

 

 日本の場合、政府の規制体制自体がEV化に対応できない構造のままになっている。現行の燃費・排ガス規制は車種ごとの規制だが、米欧はメーカーごとのCAFE(Corporate Average Fuel Efficiency)規制に切り替えている。同規制の場合、メーカーごとに平均燃費(CO2排出量)をはじき、年間販売台数等を加味した一定基準を超えた場合、罰金を科す仕組みだ。メーカーは燃費向上をし易い特定車種の向上を進めることで基準をクリアし易くなる。EVのような環境負荷の少ない車種への製造転換を促すことにもなる。

 

 日本政府はグリーン・トランスフォーメーション(GX)政策と称して、CO2排出量の多い鉄鋼、電力、セメント等の産業・企業の排出削減に政府資金を投じる方針を打ち出している。だが、米国を含め欧米は、今回のようなEV促進化策をはじめとして、蓄電池、太陽光、風力等の再生可能エネルギー事業といった「クリーン&グリーン性」が明確で、国際競争力強化につながる脱炭素事業に照準を合わせた、規制基準の整備、民間投融資の優遇策を展開している。旧来産業維持を全面に掲げる日本のGX戦略の「異質性」が際立つ展開だ。

https://www.epa.gov/newsreleases/biden-harris-administration-proposes-strongest-ever-pollution-standards-cars-and

https://www.epa.gov/regulations-emissions-vehicles-and-engines/proposed-rule-greenhouse-gas-emissions-standards-heavy