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米ニューヨーク州。新築住宅・建物でのガス使用を2026年までに禁止。気候変動対策や健康対応を理由に。オール電化に切り替え促す。「脱石炭」に次ぐ「脱ガス」の決定は米州で初(RIEF)

2023-05-04 21:47:08

CNN001キャプチャ

 米ニューヨーク州は3日、新築の住宅・建物でのガス使用を原則禁止する方針を決めた。7階建て以下の居住用の新築建物については2025年末までに、それ以上高い新築建物の場合は2028年末までに、暖房、調理のすべてで「脱ガス化」を図り、オール電化にすることを義務付ける。同州の温室効果ガス(GHG )排出量の32%は建物からの排出で占めることから、排出削減効果を高めるために踏み切る。米国で建物に「脱ガス」を義務付けるのは初めて。気候変動対策としてエネルギー分野 での脱石炭に次ぐ、建物分野での脱ガス化を促進する。

 同州知事のキャシー・ホークル(Kathy Hochul)氏が3日に明らかにした。同州は2日に「脱ガス化」を含めて議会と合意した2024年度予算を公表した。予算には住宅のオール電化促進の予算を盛り込んだ。米家庭の61%は暖房あるいは調理でガスを使用している(2020年データ)。同比率は米北東部では67%と高く、ニューヨーク州では52%となっており、家庭使用のエネルギーの半分を転換することになる。

 米国ではすでにカリフォルニア州バークリー市が2019年に、新築建物を対象としてガスから電気への切り替えを義務づける「脱ガス法」を成立させている。またサンフランシスコ市が2020年に、ニューヨーク市も21年に、同様の脱ガス法を制定している。ニューヨーク州は、こうした自治体ベースの「脱ガス」の動きを、州レベルに取り込んだ形だ。

石炭に続いてガス廃止を求める環境NGO
石炭に続いてガス廃止を求める環境NGO

 禁止の対象となるガスは、天然ガスのほか、プロパンガス等のすべての化石燃料ガスとなる。ガスストーブ、ガスコンロ等の暖房、調理用全体を対象とし、代わりにヒートポンプやIH調理器等の導入を進める。既存の住宅、建物についてはガスの使用を引き続き認める。大規模な商業施設や製造業、店舗、病院、研究機関、レストラン、コインランドリー、自動車洗車場、火葬場、農業関連施設、重要なインフラ等は対象外とする。

 電化の促進に伴い、低中所得者の電力料金増大に対応するため、4億㌦の救済策も盛り込んだ。このうち2億㌦は、州の低中所得の電力消費者約80万世帯以上に対して、月単位の電力料金を割引制度を設ける。残りの2億㌦は低所得の2万世帯を対象として、住宅の断熱化やクリーンエネ切り替え等の省エネ改修のためのプログラムに充当する。

 ガスストーブ等に用いられる天然ガスの主要成分のメタンは、温暖化係数が20年間でCO2の84倍(100年間で28倍)とされる。同州では、パリ協定の「1.5℃目標」を達成するためには、2050年までに石油・ガスを含むすべての化石燃料エネルギーの使用停止が必要と指摘している。また家庭内でのガス使用については、米消費者製品安全委員会(CPSC)が今年初めに、米国での子供の喘息の約13%は家庭内でのガス暖房が要因との調査結果を公表し、ガス規制の議論を起している。

  一方で、化石燃料エネルギー業界を支持基盤とする共和党は「脱ガス化」の動きに警戒を強めている。「消費者のエネルギーを選ぶ権利を奪っている」等の主張で、ガス規制を導入した地方自治体に対する訴訟も起きている。共和党系州の多くは、州内の自治体が同様の「脱ガス法」制定に動くことを牽制するため、連邦法の専占権(連邦法に矛盾する州法・自治体法を無効とすること)を定めて自治体の動きを抑制している(下図参照)。

周自治体の「脱ガス法」制定を規制する共和党系州の動き
米国の州のうち共和党系州で自治体の「脱ガス法」制定を規制する動き。赤い州は規制法を制定。オレンジは検討中の州。=CNNニュースから)

 こうした州法レベルでの議論が続く中で、ニューヨーク州のホークル知事は、共和党系州に正面から対抗する形で「脱ガス」の州法とオール電化方針を打ち出したことになる。脱炭素、ESG等の課題を巡る州レベルの取り組みでは、別途、共和党のフロリダ州のロン・デサンティス知事が、金融取引からESG要因の配慮を排除する「反ESG法」を制定するなど、共和党系、民主党系の政策対立が州法段階で交錯する状況となっている。 https://rief-jp.org/ct4/135144

 天然ガス産業界は、ニューヨーク州の脱ガス法制定について、共和党系州の主張と同様に「消費者のエネルギー選択権を奪うことになる」と批判し、法律の撤回を求めている。米ガス協会(AGA)の代表でCEOのKaren Harbert氏「ガスを禁止するすべての動きは、消費者のコスト負担を高めることになる。環境改善の進展に逆効果となり、低所得者に手ごろなエネルギー(Affordable energy)の提供を否定するものだ」と批判している。

 法曹関係者の間では、同州を対象とした訴訟が今後提起される可能性を指摘している。先行したカリフォルニア州・バークレイ市でのガス規制法に対しては、同州のレストラン協会が訴訟を提起し、レストランで使用するガス調理器を規制の対象外とすることに成功している。法的には、連邦法の専占権と州法の自主性との関係に、米最高裁がどう判断を示すのかという論点が注目されている。

 ニューヨーク州は3年前に2050年ネットゼロ目標を掲げる「気候リーダーシップ・コミュニティ保全法」を制定した。ホークル知事のスポークスパーソンのKaty Zielinski氏は「(脱ガス策を盛り込んだ)今回の予算は、同法に基づき、ニューヨークを、よりクリーンで、より変更的な未来につながる方向に向かせることで、ニューヨークの家庭と住民を守っていくことになる」と強調している。今回の予算では同州の電力機関(NYPA)は州内のGHG排出量の中心である既存の火力発電所15基の脱炭素化の推進も盛り込んでいる。

 https://www.dec.ny.gov/docs/administration_pdf/ghgsumrpt22.pdf

https://www.governor.ny.gov/news/governor-hochul-announces-fy-2024-budget-investments-energy-affordability-sustainable

https://edition.cnn.com/2022/02/17/politics/natural-gas-ban-preemptive-laws-gop-climate/index.html