EUの気候政策責任者の欧州委副委員長、ティメルマンス氏、辞任へ。出身国オランダの次期首相に立候補へ。EUの気候政策にも影響か（RIEF）
2023-07-24 16:30:58
欧州委員会の副委員長で、EUの気候政策責任者を務めるフランス・ティメルマンス（Frans Timmermans）氏が次期オランダ首相に立候補するため、同委員会を辞任すると表明した。今月初めに、オランダのルッテ政権が移民政策をめぐる連立与党内での対立で崩壊、辞任を表明したルッテ首相の後任首相に立候補する形だ。EUの気候政策自体、ロシアのウクライナ侵攻後のエネルギー政策をめぐり困難な状況に直面しているとされ、ティメルマンス氏の離脱でEUの政策の先行きにも不透明感が生じる形だ。
同氏はオランダの国会議員、外相を経て、2014年にユンケル委員長の下での欧州委員会に入った。当初から同委員会の副委員長として委員長を支える役割を演じてきた。2019年に現在のフォンデアライエン委員長に代わってからも、EUの最重要政策の一つである気候政策の責任者として采配を振るってきた。
しかし、母国の政治の混乱を眼前にし、同氏は、自らがその混乱解決のためのリーダーの座に就くことを最優先する決意をしたようだ。同国では11月に総選挙が予定されており、同選挙で国会議員に復帰し、国内政治を統合する意欲のようだ。同氏は国会議員時代は労働党に所属していた。外相を務めたのはルッテ政権の第一期目だった。
ティメルマンス氏は、ユンケル欧州委が任期満了で交代する際、欧州議会の左派系の推薦で、次期委員長候補に指名された経緯がある。しかし、議会内の力関係や、EU内での独仏等の主要国の政治的思惑等から、委員長はドイツのフォンディアライエン氏になった。ティメルマンス氏は、前委員会と同様の副委員長として留任を要請された経緯がある。
フォンディアライエン委員会は、来年6月には任期を迎える。再任か交代かが問われるが、欧州委員のうち、すでに2つの委員会で副委員長を務めてきたティメルマンス氏の再留任は困難とみられている。今回の同氏の国内内政優先の判断は、こうした欧州委内部での自らの立ち位置に関する判断も反映しているとみられる。
ティメルマンス氏の後任については、現時点では候補者名があがっていない。来年6月に委員全体が改選されることから、それまで空席のままとし、現委員会の再任あるいは新委員会の専任を見極めてから別の担当者を決めればいいとの見方も出ている。しかしそうなると、11月に予定される国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議（COP28）においては、EUの気候政策責任者は「代理」ということになり、交渉力への疑念が生じかねない。
同氏はこれまで3度のCOP会議にEU代表として出席している。このうちCOP26ではCO2に並ぶ温室効果ガスであるメタン削減の国際的合意を後押しし、COP27では気候変動による「損失と損害基金」への反対意見を抑えて合意をとりつけた。今年のCOP28では化石燃料の段階的廃止と再生可能エネルギーの増大に道筋をつけることが求められており、気候外交の「プロ中のプロ」でもある同氏の外交手腕に期待が集まっていた。
同氏のスタンスは基本的に気候政策をグローバルに推進する点だが、途上国に対しても、その言い分を丸飲みするのではなく、着地点を見出すために途上国にも譲歩を迫る現実的で強固な姿勢をとることで知られる。EUの気候対策についても、ロシアのウクライナ侵攻でEUのエネルギー事情が逼迫すると、環境派からの批判を受けつつ、ロシア以外からの天然ガスの確保を産業界に認める等の政策調整を展開してきた。
COP交渉においてEUのスタンスが弱まると、「何も決まらないCOP」になりかねない。同氏はすでに国内政治の世界に視点を移し、労働党とグリーン党の左派連合に対して、自らの意思を伝えたとしている。同氏にとっても「首相への道」が保証されているわけではない。
ただ、両党だけで政権を樹立できるかどうかは総選挙で勝利しないと難しい。ティメルマンス氏の気候政策の成果をオランダ国民がもろ手をあげて歓迎するか。政権崩壊の焦点となった移民問題で同氏が合理的な解決案を示せるか。直近のオランダでの世論調査で同氏を次の政権のリーダーとして信頼できるかとの問いに「イエス」と答えた有権者は39％にとどまっている。
2期務めた欧州委員会時代に左派の政治家だけでなく、右派、中道の政治家等とも虚々実々の駆け引きを展開してきた経験が生きるかもしれない。
https://www.climatechangenews.com/2023/07/20/frans-timmermans-dutch-climate-change-eu/
Research Institute for Environmental Finance