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トランプ米政権、米東海岸で建設中の洋上風力発電5事業に対し「国家安全保障リスク」を理由にリース契約を一時停止。風車の羽根がレーダーに影響と懸念表明。新たな知見はなく(RIEF)

2025-12-24 22:41:26

Vinyardwindキャプチャ

写真は、米内務省から建設の一時停止命令を受けたマサチューセッツ州の洋上風力発電施設Vinyard Wind 1の周辺地域=同サイトから引用)

 

  トランプ米政権は22日、米国内で建設中の5件の大規模な洋上風力発電所に対するリース契約を一時停止すると発表した。風車の回転するブレードがレーダーシステムに干渉することが、国家安全保障上のリスクにあたる可能性があるとしている。対象となるのは、米東部のマサチューセッツ州からバージニア州沖で建設が進む5事業。風力発電設備の建設に使う海域のリース使用契約を一時停止する。5事業全体での投資額は約280億㌦(約4兆4000億円)。トランプ政権はこれまでも、米東海岸沖で計画段階の洋上風力発電事業を差し止めるなど、「風力発電潰し」に力を入れている。

 

  内務省が、建設中の洋上風力発電事業のリース契約の一時停止策を打ち出した。同省によると、国防総省が最近完成した機密報告書において指摘した国家安全保障上のリスクを理由に、米国で建設中のすべての大規模洋上風力発電プロジェクトのリースを即時停止すると発表した。

 

 この一時停止措置により、内務省は国防総省およびその他の関連政府機関とともに、リース権者および州のパートナーと協力して、これらのプロジェクトがもたらす国家安全保障上のリスクを軽減する可能性を評価する、としている。

 

 内務長官のダグ・バーガム(Doug Burgum)氏は「米国政府の第一義的な義務は、米国国民を保護すること。今回の措置は、関連する敵対技術の急速な進化や、東海岸の人口密集地に近い大規模洋上風力発電プロジェクトによって生じる脆弱性など、新たな国家安全保障上のリスクに対処するもの。トランプ政権は、常に米国国民の安全を最優先する」とのコメントを発表した。

 

 リース契約の一時停止を命じられたのは以下の5つのプロジェクト。いずれにも日本企業は関与していない。

 

①ヴィネヤード・ウィンド1(Vineyard Wind 1) (OCS-A 0501)=マサチューセッツ州沖

②レボリューション・ウィンド(Revolution Wind )(OCS-A 0486)=ロードアイランド近海

③コースト・バージニア(CVOW – Commercial )(OCS-A 0483)=バージニア州沖

④サンライズ・ウィンド(Sunrise Win)(OCS-A 0487)=ニューヨーク沖

⑤エンパイア・ウィンド1(Empire Wind 1 )(OCS-A 0512)=ニューヨーク沖

 

 同省によると、米政府の非機密報告書の指摘では、大規模洋上風力発電の稼働によって、巨大なタービンブレードの動作と高反射性のタワーが「クラッター」と呼ばれるレーダー干渉を引き起こすとしている。このクラッターが生じると、正当な移動目標を隠蔽し、風力発電プロジェクト周辺に偽目標を生成するとしている。

 

 この問題に関連して、エネルギー省(DOE)は2024年の報告書で、クラッター対策として、レーダーの誤警報検出閾値を引き上げることで一部のクラッターは低減可能としているが、検出閾値の引き上げは、レーダーが「実際の目標を見逃す」原因になり得るとも指摘している。

 

 内務省は、「今回の措置により、洋上風力プロジェクトがもたらす国家安全保障上のリスクが適切に対処され、米国政府が米国民を効果的に防衛する能力を維持することが保証される」としている。

 

 ただ、米国の専門家によると、国家安全保障を理由に風力タービンを米国海域から排除することが、法的により持続可能な方法といえるかどうかは、不明とされている。Bloombergの報道では、資産運用機関レイモンド・ジェームズのアナリスト、パベル・モルチャノフ(Pavel Molchanov)氏は、洋上風力発電がレーダーに与える影響は、何年も前から知られていることとする。

 

 同氏は「軍事上の懸念について、突然、風力発電だけについてプロジェクトの中止を正当化するような新しい情報があるとは、私は懐疑的だ。控えめに言っても、政権が洋上風力発電を好んでいないことは周知の事実だ」と述べている。

 

 また、コーネル大学気候雇用研究所所長のララ・スキナー(Lara Skinner)氏は「欧州諸国では長年、沿岸風力発電所が稼働しているが、このような問題は発生していない」と指摘。「(米国内でも)これらのプロジェクトは全て、国防総省を含む厳格な審査を経ている」と回答している。

 

 こうしたこれまでの経緯等から、他のアナリストは「トランプ政権が使用した表現や、停止命令に関するこれまでの経験から、プロジェクトがすぐに再開される可能性もあると楽観的に考えるべきだろう」と指摘している。また一時停止が長期化すると、訴訟になるのは明白でもある。2026年に議会の中間選挙を控えたトランプ政権として一時的にしろ、風力発電事業を牽制するメッセージを世に送るのが目的との見方もある。

 

 米紙ニューヨーク・タイムズによると、対象となった5事業はバイデン前政権時に進められてきた。一部はすでに稼働中で、全て稼働すれば米東部の250万世帯以上の住宅に電力が供給される見込みとされる。5事業が全て停止されると、米国で建設まで進んだ洋上風力発電は、現在、稼働済みの2事業のみになるという。

 

 米国ではAI(人工知能)開発に使うデータセンターの拡大などを背景に、電力需要が増加している。だが、トランプ政権は再エネの普及に対しては後ろ向きな政策を進めている。7月に肝いりで成立させた大型減税法「一つの大きく美しい法(OBBB)」でも、太陽光発電に対する税額控除を、中国を念頭に「外国の敵対勢力が支配するサプライチェーン(供給網)への依存につながる」として大幅に削減した。

                           (藤井良広)

 https://www.doi.gov/pressreleases/trump-administration-protects-us-national-security-pausing-offshore-wind-leases

https://www.vineyardwind.com/vineyardwind-1