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原発安全基準の策定でIAEA外しの動き(WSJ)ここでも政争 ということか

2011-06-09 12:47:56

Associated Press
日本の原発事故をめぐる国際原子力機関(IAEA)の対応に一部の先進国が懸念を強めている。事情に詳

Associated Press


しい複数の関係者が明らかにしたところによると、3カ国の政府高官が原発安全基準の策定議論からIAEAの天野之弥事務局長を外そうとしている。

3カ国で原子力を担当する政府高官は、このところ、IAEAは東京電力福島第1原発の危険性について迅速かつ正確な分析を行なわなかったと声高ではないながらも批判している。

 これらの政府高官は特に、IAEAと日本の元外交官である天野事務局長が日本政府の核防災計画や事故発生後の対応について適切な追及を行なったかどうかを問題視している。

 これら政府高官の一部は、2009年のIAEA事務局長選で天野氏を支持したが、現在では天野事務局長がいまだに日本政府の影響下にあるのではないかと危惧している。天野事務局長は報道官を通じ、疑惑についてコメントを辞退した。IAEA加盟国が原発事故への事務局長の対応について満足しているかとの質問に対して、天野氏は「満足しているかどうかは加盟各国に聞かなければならない」と回答した。

 同高官によると、原子力の安全強化に関する国連の協議の場で、IAEAの役割を議論する際に影響力を拡大しようとする一方で、天野氏を排除しようとする動きがあるという。同氏の出席が難しい日程で設定されたハイレベル協議が少なくとも2つあったと、これらの高官は述べている。

 7日にはパリで、原子力の安全に関する閣僚級セミナーが開催され、30カ国以上が参加したが、天野事務局長は出席しなかった。セミナーでは、経済協力開発機構(OECD)・原子力機関(NEA)の代表が原子力産業の安全性の監視を強化することや原子力事故への対応で協調性を高めることを求めた。天野事務局長がセミナーに出席しなかった理由として、IAEAのジル・チューダー報道官は事務局長は7日のIAEA定例理事会に出席しなければならなかったと述べた。

 IAEA理事会の日程は1年前からIAEAのウェブサイトに掲載されていたことがわかっている。天野事務局長はパリの閣僚級セミナーに向けてビデオ演説を作成、会場で上映された。

 また、今年9月22日には、国連の潘基文事務総長が、ニューヨークで開催される第66回国連総会に合わせて、原子力の安全と核の安全保障に関する首脳級会合を開催する予定だ。しかし、同じ時期にIAEAは最も重要な年次総会を開催することが決まっている。年次総会の開催も1年近く前から予定されていたものだ。

 天野事務局長の報道官によると、IAEAは年次総会の日程を変えることはできないが、IAEAは事務局長が国連の会合に出席する方法を検討中だという。

 主要8カ国首脳会議(G8)の今年の議長国であり、パリの閣僚級セミナーの主催者でもあるフランスの報道官は天野事務局長を軽視する意図はなかったと述べた。また、報道官は、天野事務局長が、IAEA主催で今月開かれる、原子力の安全に関するG8フォローアップ会合には出席する予定だと述べた。

 国連の潘事務総長の報道官は、9月22日の会合について、世界各国の首脳が国連関連のイベントのためにニューヨークに集まることから設定したと述べた。同報道官は、天野事務局長が出席するかどうかにかかわらず、IAEAは原子力の安全に関する報告書を作成するという「きわめて重要な」役割を果たすと述べた。

 しかし、G8のうち3カ国の上級外交官によると、主要会議の日程が重なっているのは偶然ではないと指摘する。パリの閣僚セミナーに出席したある政府高官は、「天野氏が出席できないようにスケジュールが決められている。原子力の安全に関してIAEAの存在感を薄めようとしている」と述べた。

 天野事務局長の報道官は、日程が重なる理由や事務局長外しの動きとの関連についてコメントを差し控えた。

 公式の場では、強い影響力を持つ国連加盟国はIAEAへの支持を引き続き表明している。米国のグリン・デイビスIAEA担当大使はウォール・ストリート・ジャーナルからの質問に対し、「米国はIAEAが原子力の安全を議論する適切な場として考えている」とメールで回答を寄せた。

 しかし、IAEAは1957年に原子力の平和的利用の促進を目的に設置され、その目的にリソースのほとんどを充てていることから、前述の外交官は、IAEAに世界の核の安全を監視する機関として機能する能力があるのか、原子力災害に対応する能力があるのかという疑念を抱いている。G8はカナダ、フランス、ドイツ、イタリア、日本、ロシア、英国、米国で構成されている。

 特に先進2カ国の政府高官はIAEAが先週公表した福島原発事故に関する調査報告書の要約の一部について異論を唱えている。IAEAは報告書の中で、日本の危機管理が「模範的 」であるとしたが、この評価については日本の内外で批判が高まるものとみられる。報告書は、日本政府の結論と同様、原発事故の直接の原因がマグニチュード(M)9.0の地震ではなく、津波であるとした。地震が直接の原因とされていれば、地震多発国日本の原子力発電業界にとって、より深刻な指摘になっていたはずだ。

 7日の閣僚級セミナーでは、同セミナーで出された提案によってIAEAの安全に関する権限が強化されることを期待するとの意見が出たという。

 セミナーの主催者であるフランスのナタリー・コシウスコ=モリゼ環境担当相は「(IAEAの)役割は重要だと考えている。このセミナーはIAEAの役割を弱めたり、その正当性を削いだりするためのものではない」と述べた。「反対に、我々はIAEAの強化を望んでいる。IAEAのトップは我々が出した結論を現実のものとしてもらいたい」とも語った。

 閣僚級セミナーではG8とNEAの代表が、原子力発電所のあるすべての国で福島の原発事故に基づき安全テストと定期的な安全審査を実施するよう提案したほか、IAEAは国際的な原子力の安全を監視する上でこれまで以上に大きな役割を果たすことが必要との意見で一致した。コシウスコ=モリゼ環境担当相は、IAEAが福島の原発事故を受けて安全基準を見直すように求めた。

 同セミナーはIAEAが6月20日からウィーン で開催する閣僚級会合に先立ち、NEAとG8による合意形成の機会として開催された。IAEAの閣僚級会合には151カ国が出席し、福島の原発事故の教訓を議論するとともに、原子力の安全全般について国際的な指針の策定を目指す。

記者: David Crawford and Max Colchester