HOME |熊本・荒瀬ダム撤去完了、5年がかり。総費用84億円。建設から50年超過の「撤去候補ダム」は一級河川だけで800以上。撤去費用推計は合計67兆円超。国・自治体にその備え無し(RIEF) |

熊本・荒瀬ダム撤去完了、5年がかり。総費用84億円。建設から50年超過の「撤去候補ダム」は一級河川だけで800以上。撤去費用推計は合計67兆円超。国・自治体にその備え無し(RIEF)

2018-04-05 23:03:17

arase1キャプチャ

 熊本県八代市の県営荒瀬ダムの撤去工事が先月下旬に完了した。本格的なコンクリートダムの撤去は国内で初めて。撤去のための総事業費は約84億円で、国が16億円の補助金を供与した。全国には約3000のダムが存在し、うち半分が一級河川に設置され、すでにその半数以上は建設から50年以上を経ており、再建する場合も撤去の場合も膨大な費用が必要。公的インフラの資産除去費用対応が課題だ。

 

写真は、撤去作業中の荒瀬ダム)

 

 荒瀬ダムは球磨川中流に1955年に建設された発電専用ダム(高さ約25m、幅約211m)。戦後復興の電力確保などを目的に熊本県が建設したダム。一般に、ダムの建設寿命はコンクリートの耐用年数などから50年とされる。同ダムは2003年に水利権更新を迎えるとともに、50年の期限が近づき、存続か撤去かが課題となった。

 

 同ダムを巡っては、以前から放水による振動被害やダム建設でかえって洪水被害が拡大したのではないかとの不信感が続いていた。地元の村はダム撤去の請願を県に提出するなどの動きもあった。熊本県の撤去費用試算では総事業費47億円となったが、その後、費用の増額が見込まれた。このため蒲島郁夫県知事はいったん撤去案を撤回するなど迷走したが、2012年度から撤去作業に入っていた。

 

ダムの橋梁を撤去する工事
ダムの橋梁を撤去する工事

 

 ダムの撤去工事によって、長年ダムに溜まっていた土砂が海に流れたことで、干潟でも生態系の再生が始まった。貝類の漁獲量が上昇し、姿を消していたウナギも獲れるようになったり、水量の増加で水深が深い川の本流が約60年ぶりに復活、カゲロウ、カワゲラなどの水生昆虫の生息数も回復するなど瀬自然の再生は確実に起きている。

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 県荒瀬ダム撤去室によると、撤去工事が始まった2012年以降、県がダムの上下流で行った水質調査では、汚染の指標となる生物化学的酸素要求量(BOD)の値は、国がきれいな河川の基準とする1㍑当たり2mg以下で推移している。

 自然回復は大いに評価できる。その一方で、撤去費用の大きさは今後、同様に「コンクリートの寿命」を迎える各地のダムにとって脅威である。ほとんどのダムは、ダムの撤去を前提とした積立金等を積んでいないためだ。熊本県が一時迷走しかけたのも、撤去費用の膨張の影響が大きい。

 

 民間の場合、保有資産の価値は減価償却で撤去(除去)費用も含めて対応するのが原則だ。これに対して、自治体等の公会計では資産評価をして減価償却したり、撤去費用の積み立てなどの処理をしていない。撤去の場合は、その段階で費用を計上する。ダムのように巨大な構造物の場合、その費用の増大は自治体財政を圧迫するリスクも大きい。

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 仮に、建設以来50年を超過している一級河川に設置されている800以上のダムの撤去に、荒瀬ダムと同じ費用がかかると仮定すると、67兆2000億円もの巨額の費用になる。国が補助金で支えても、結局は税金による国民負担となる。

 

 撤去期間中は、発電などによるキャッシュフローを生まないので、グリーンボンドなどで資金を調達するのも難しい。しかし、財源不足で撤去を遅らせると、ダムの漏水などのリスクが増大しかねない。国・自治体は、公的資産の撤去(除去)費用を平準化するための財源確保が求められる。ダムの場合、撤去に伴う膨大はコンクリート残渣の処理や、撤去後の治水管理なども必要だ。

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