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保険会社の石炭関連事業向け保険引き受け停止、2020年は6社増。米、英ロイズ市場、日本含む東アジアの遅れ目立つ。NGO共同の調査「Insuring Our Future」で判明(RIEF)

2020-12-04 00:04:43

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 保険会社による石炭火力発電や石炭鉱業等の事業の保険引き受け停止や投資引き揚げの行動が広がっているが、一方で、引き続き引き受けも投資も続ける保険会社が多いことが調査で分かった。引き受け停止・制限に踏み切った保険・再保険会社は2020年で23社と前年の17社から6社増えた。各社の保険市場の12.9%、再保険市場の46.4%に上昇。しかし米国、英国のロイズ市場、日本を含む東アジアでの「脱石炭」の遅れが目立つという。

 

 調査は、世界の環境NGOが共同で実施する「Isuring Our Future(IOF)」による2020年レポート(第4回)。保険会社は、温暖化の影響による災害増大で、保険支払額が増えている。このため、温暖化の要因であるCO2排出量の多い石炭関連事業・会社の保険を引き受けることは、ESG配慮に反するだけでなく、自らの事業への直接的な悪化にもつながる。

 

 こうした事情から、主要な保険会社は石炭鉱業・同火力事業・事業会社の事業転換を求めて保険引き受け停止を進めているほか、資産運用の投資対象からも、化石燃料企業を除外する動きを強めている。IOFの調査では、保険引き受けの停止・制限を実施する保険会社は、19年の17社から23社に増えた。保険引き受け市場での比率は、前年の9.5%から12.9%に、再保険市場では46.4%から48.3%に上昇した。

 

石炭関連事業の保険引き受け停止の推移
石炭関連事業の保険引き受け停止の推移

 

 オイルサンド事業についても保険引き受けの停止あるいは制限を実施した保険会社が19年の4社から9社に増えた。またオーストラリアのサンコープ(Suncorp)は石炭だけでなく石油・ガスを含むすべての化石燃料事業・事業会社の保険引き受け停止を宣言した最初の保険会社になった。

 

 石炭関連会社への投資の中断も増えている。投資引き揚げや新規投資停止等を打ち出した保険会社は少なくとも65社に上っている。これらの保険会社の総投資額は12兆㌦に達し、保険産業全体の40%以上に及んでいる。19年の35社、8兆9000億㌦と比べると、保険会社数で86%増、総投資額で35%増と急増している。

 

保険会社による石炭関連事業の投資除外の推移
保険会社による石炭関連事業の投資除外の推移

 

 一方で、米国や、英ロイズ保険市場、日本等の東アジアの主要な保険会社の多くは、引き続き、石炭関連事業や事業会社の保険引き受けを続けている。ただ、いくつかの保険会社は将来の懸念から行動を始めた。たとえば、韓国のSamsung Fire & Marineのほか、日本の3損保会社も2020年に原則として新規の保険引き受けを停止する方針を相次いで発表した。

 

 ただ、日本の3損保の「脱石炭」方針は、①すでに保険引き受け・投融資を行うことを表明している案件②一定以上の発電効率を有する設備は慎重に検討し対応する、と例外規定を設けている。超々臨界圧石炭火力発電(USC)や、石炭ガス化複合発電等の保険引き受けは継続する方針だ。このためIOFレポートは「日本の損保の方針には多くの抜け穴がある」と警戒を示している。

 

 IOFキャンペーンのコーディネーターのPeter Bosshard氏は「保険会社の多くが、化石燃料から継続的に距離をとり続けていることはポジティブな動きだ。しかし、気候危機の悪化が進む中で保険会社の活動はもっと加速されねばならない」と強調している。

 

温暖化対策で先行する「リーダー保険会社」と、「出遅れ保険会社」。日本勢は後者に。
温暖化対策で先行する「リーダー保険会社」と、「出遅れ保険会社」。日本勢は後者に。

 

 レポートは、各保険会社の石炭等の化石燃料事業への対応をスコア評価したランキングも公表している。スコアのトップはフランスのAXA。次いでスイスのスイス再保険。以下、ドイツのハノーバー再保険、チューリッヒ、ミュンヘン再保険と、欧州保険会社が上位を占める。ランキング上位10位のうち、8社が欧州勢、他に米国、豪州が一社ずつとなっている。

 

 日本勢は東京海上ホールディングス、MS&ADイシュアランスグループホールディングス、SOMPOホールディングスの3社がそろって18位に位置付けられている。ランクが低いだけではなく、スコアはいずれも0.31。トップのACAの4.38、スイス再保険の4.29から大きく離れているだけでなく、3社の次のランク企業はスコア0点なので、劣後感が強く示されている。

 

 石炭関連事業への保険引き受け停止の流れは高まっているものの、同じ化石燃料の石油・ガス事業への保険引き受け比率は高い。世界の石油・ガス事業の70%は、AIGやロイズ、チューリッヒなど10の主要保険会社が保険引き受けを実施している。これらの石油・ガス事業の保険引き受け市場の4分の1は、パリ協定の「1.5℃」目標支援を表明している保険会社が実施している。

 

 このためIOFレポートは、石炭関連事業の保険引き受け停止を進める欧州の保険会社は、石油・ガス関連事業の引き受け停止も進める必要があると指摘している。

 

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