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英中央銀行のカーニー総裁。「気候リスク評価は銀行・保険のマクロ・プルーデンス政策の責務」。TCFD勧告による情報開示の普及、来年の大阪G20をメド。オランダ会議で表明(RIEF)

2018-04-10 23:58:49

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    英仏蘭の中央銀行が主催して、初の「International Climate Risk Conference for Supervisors(金融監督機関のための気候リスク会議)」がオランダで開かれた。英イングランド銀行のマーク・カーニー総裁は、「気候変動リスクは、銀行、保険部門の安全性と健全性に関する中央銀行のマクロ・プルーデンス政策の責務に、もっとも直接的に関連する」と指摘。そうした気候リスク把握のため、TCFD勧告に沿った企業の気候情報開示の普及の当面のメドを、2019年6月の大阪でのG20とみていることを明らかにした。

 

 アムステルダムで開いた会議は、17年12月、英仏独などの主要な中央銀行や金融監督当局が、パリ協定と国連の持続可能な開発目標(SDGs)の達成を目指して設立した「金融システムのグリーン化のための中央銀行と金融監督者のネットワーク(NGFS)」が主催した。会議にはNGFSのメンバー以外に、日本を含む世界30カ国から50以上の中銀、金融監督当局の担当者が参加した。

 

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 TCFD報告を世に問うた金融安定理事会(FSB)の議長でもあるカーニー総裁は、保険、銀行部門の気候変動の影響について、中央銀行として調査を実施・拡大していることを明らかにした。イングランド銀行は、2015年に保険会社が被る気候変動によるリスクの確認、評価、削減に関する調査を公表し、金融機関が抱える気候リスク問題をクローズアップした。総裁は保険会社対象の二度目の調査を近く公表するとともに、銀行部門への影響調査の公開も予定していることを明らかにした。

 

 同総裁は、中央銀行による金融機関監督のマクロ・プルーデンス政策では、「銀行や保険会社が、ビジネス全体、その資産負債の両面、さらに十分な長期間にわたって、気候リスクを明確に把握し、リスク削減のための戦略を打ち出す適切なガバナンス体制をとっているかどうかを考慮するために行う」と述べ、伝統的な金融機関の安全性、健全性をチェックする視点に加えて、気候リスクへの対応を問う姿勢を明確化した。

 

 そのうえで、気候リスクの情報開示を求める市場の動きについて触れ、「2017年に主要企業での気候関連情報開示を求める株主提案が前年より3倍増(184対63)に急増している」と指摘。それらの株主提案を、世界の運用資産の45%を占める投資運用会社等が支持を表明しているとして、市場ベースの動きがすでに広がっていることを紹介した。

 

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 総裁は、こうした動きを踏まえて、企業と金融機関に、気候リスク財務情報の開示を求めたTCFD勧告について、 「多くの上場企業が2017/18年の企業情報開示に際して、自らの気候関連財務情報の開示を始めている。TCFDを参考にして情報開示する企業は、大手エネルギーや開発事業者から金融機関、消費財企業等を含んでいる」と述べた。今年の決算発表で、主要企業による気候財務情報開示が始まる見通しを示した。

 

 こうした企業の取り組みを後押しするため、TCFDは7月にアルゼンチンで開くG20(20カ国首脳会議)で、4大会計事務所による作業を踏まえ、TCFD勧告の適用のグッド・プラクティス事例を公開する。また、情報開示やシナリオ分析のための技術支援やデータ提供、共同パートナーシップ締結等に資する「Resource Hub」を立ち上げることも明らかにした。

 

 総裁は「金融機関や投資家にとって、まず取り組むことが学ぶことに通じる。先行者の姿がフォロワーのさらなる改善の取り組みを促す。こうしたサイクルが、より多くの、より良い情報の、開示につながる」と語った。

 

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 TCFDは昨年6月に勧告を公表後も、活動を継続している。総裁は「TCFDの継続は、こうした民間企業の勧告採択と普及を促すため」と位置付け、アルゼンチンでのG20の後、年後半から、来年6月に大阪で開催するG20までを一定の普及期間とみなしていることを示唆した。

 

 そのうえで総裁は「重要なのは、企業の気候関連財務情報の開示が投資家の投資判断にとって真に有益かどうかというフィードバックを得ることだ。そうした投資家判断が得られるならば、この情報開示のプロセスは、より効率的でかつ効果的になる」と語った。そうした手応えが、来年の大阪G20で確認される際、日本企業、金融機関にも広がっているかどうか。

 

 NGFSには、オランダ中央銀行、ドイツ連邦銀行、ドイツ金融監督当局(BaFin)、メキシコ中央銀行、イングランド銀行、 フランス中央銀行、仏Autorité de Contrôle Prudentiel et de Résolution (ACPR)、  シンガポール金融管理局、中国人民銀行、スウェーデン金融監督当局などが参加。フランス銀行が事務局を担当。国際決済銀行(BIS)もオブザーバーで参加している。日銀や金融庁は正式メンバーになっていない。

 

https://www.bankofengland.co.uk/-/media/boe/files/speech/2018/a-transition-in-thinking-and-action-speech-by-mark-carney.pdf?la=en&hash=82F57A11AD2FAFD4E822C3B3F7E19BA23E98BF67