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国連支援責任投資原則(PRI)に、反旗を翻したデンマークの年金基金、徐々に復帰。PRIのガバナンス改革を評価。ただ、PRI自体の組織的課題も浮上(RIEF)

2019-02-25 12:16:05

PRI2キャプチャ

 

 国連支援の責任投資原則(PRI)は今でこそ、世界の機関投資家のESG活動推進の中心的役割を果たしている。だが、実はほぼ5年前に、そのガバナンスの不備を理由に、デンマークの主要年金基金が集団脱退する事件があった。このほど脱退していた複数の年金が「PRIのガバナンス改善」を理由に復帰、PRIの権威修復が進んでいる。

 

 「デンマークの反乱」が起きたのは2013~14年。公的年金のATPをはじめとする8つの主要年金基金がPRIから脱退した。デンマーク勢の言い分は、2010~11年にPRI執行部が実施した組織変更が署名機関の了解なしに実施された点だった。署名機関を無視した執行部主導のガバナンスは、まさにESG評価に逆行するとの指摘だった。http://rief-jp.org/wp-admin/post.php?post=40115&action=edit



 当時脱退した年金機関は、ATPのほか、産業年金基金、年金デンマーク、PFA年金基金、PKA、PenSamなど。さらにその後、追加脱退が相次ぎ、総勢13の年金がPRIを後にした。医師の年金基金のLaegernesは「さらばPRI」の声明を出したほどだった。デンマークの年金でPRIに残留したのは4基金だけだった。

 

 事態を深刻に受け取ったPRIはガバナンス改革に取り組んだ。2015年にはガバナンスの公式レビュー体制を立ち上げた。さらに新たなガバナンス構造を署名機関の投票で決めるなどの「民主化」を進めた。ただ、PRIの理事会の構成を巡っては、資産保有機関と資産運用機関のどちらに配慮するか、といった課題も浮上するなど、容易ではなかった。

 

   しかし、改革の積み上げの結果、このほど離脱年金の一つ、PenSamが「2013年以来のPRIの改革を振り返って、ガバナンスの変化に満足している」としてPRIに復帰した。先月には公的年金のAP Peinsionも復帰、すでに17年1月に復帰した公的年金のTPAなどと合わせて、6年金が新規あるいは復帰の形で増え、同国の署名年金数は10基金に増えている。資産運用機関等も含めた署名機関数は32となっている。

 

 PRIのCEOの Fiona Reynolds氏は「、PenSamの復帰を歓迎する。彼らとともに、責任投資をさらに進めていきたい」とのコメントを出している。 ただ、Laegernes や産業年金基金等はいまだ復帰の動きをまだみせていない。

 

 彼らは復帰をためらっているのか。あるいはPRIのガバナンスにまだ不満があるのか。一つの憶測は、責任投資の領域で、「PRI以外の選択肢が出てきたため」との見方がある。たとえば、気候変動関係では、TCFDの勧告がある。さらにはEUレベルではサステナブルファイナンス行動計画が策定中という動きもある。

 

 自主的な署名方式のPRIに比べて、TCFDは当面は自主的情報開示となりそうだが、財務情報との連動性を考えると、いずれ義務的な適用も想定される。一方のEUのサステナブルファイナンス行動計画は、欧州委員会がESG情報の義務的開示、フィデシャリーデシャリデューティー(受託者責任)の義務化などの法制化を目指している。さらには国際標準化機構(ISO)でのグリーン&サステナブルファイナンスの規格化作業も進んでいる。

 

 PRIキャプチャ

 

 日本では、今でもPRIを「国連責任投資原則」と呼ぶ向きは少なくない。だが、PRIは国連機関ではない。当時のアナン事務総長が推進したのは間違いないが、正しくは「国連支援」であり、国連環境計画(UNEP)と、国連グローバルコンパクトの両国連機関がパートナーとして支援する「投資家イニシアティブ」なのである。したがって、デンマークの年金たちが「投資家主導でない」と反旗を翻したのは、当初からPRIの構造をしっかり見抜いていたためともいえる。

 

 2006年以降、「PRIしかない時代」がほぼ10年続いて、どうやら他の選択肢の登場と、自発的な宣言方式から、義務化、標準化の方向に市場のカジが大きく切られようとしていると考えると、PRI自体はガバナンス課題を超えた、存在自体の課題に直面しつつあるのかもしれない。ただ、それはPRIがこれまでESGマインドを機関投資家に植えつけるという活動の成果の上でのステップアップの展開とみることもできる。PRI自体が今後、どう展開するかは興味深い点だ。

https://www.unpri.org/

                                                                           (藤井良広)