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英メジャーのシェル。環境NGOグリーンピースによる海底石油開発用施設への「不法侵入」に損害賠償約13億円を請求。NGOは「シェルこそ、気候変動への賠償を支払え」と対立(RIEF)

2023-11-12 02:21:37

 (YouTube : シェルのFPSOに乗り込んで抗議行動を展開したグリーンピースの活動家たち)

 英石油メジャーのシェル(Shell)が環境NGOのグリーンピースに対して、860万㌦(約13億円)の損害賠償を請求する訴訟を提起した。今年1月、同NGOの活動家が、大西洋からノルウェーの北海沖に向けて航行中だったシェルの浮体式生産貯蔵積出設備(FPSO)に、不法侵入したことで操業が遅れ、侵入した活動家の保護等のために費用を支出させられたとして、損害賠償を求めたものだ。海底油田開発に反対するグリーンピースの再三の抗議活動に対して、法廷闘争で反撃に出た形だ。

 グリーンピースの活動家が乗り込んだFPSO(Floating Production, Storage and Offloading system)は、海底から採掘した石油やガスを、海洋上に浮かべた船体内の貯油タンクに貯蔵した後、輸送タンカーに直接、積み出しする施設。「ペンギン号」と名付けられている。船の形をした石油プラットフォームの一種で、開発した石油・ガスは、同施設から直接タンカーに移して移送するか、パイプラインで移される場合とがある。

 環境活動家たちは、シェルがノルウェー沖の北海の海底で進めている石油採掘事業を阻止しようと反対運動を展開している。しかし、シェルとは平行線のままだ。そこで、シェルが中国企業に発注したFPSOを開発地点まで航行する途中、英国領海内に入った段階で、自らの船に乗ってFPSOに接岸し、活動家が同施設に乗り込んで抗議活動を行うという強硬手段に打って出た。

グリーンピースの活動家がターゲットとした「ペンギン号」
グリーンピースの活動家がターゲットとした「ペンギン号」

 

 乗り込んだのは6人の活動家。このうち一人は、FPSOに290時間(13日間)滞在し、距離にして約400kmを航海し、ノルウェーにまでたどり着いた。シェルはFPSOが航行中に、活動家たちが接岸して乗り組むという荒業を取ったため、活動家たちが海に転落しないように保護措置を講じたほか、正規の乗組員の安全確保等の対応も迫られたとして、それ等に伴う費用を損害賠償として請求した。

   請求額の860万㌦のうち、210万㌦はシェルが要した費用の補償であり、残りの650万㌦は製造業者である中国企業への損害賠償支払いだとしている。環境NGOの企業への抗議活動に対する企業側の損害賠償請求額としては過去最高と思われる。シェルは、「グリーンピースが今後、海上や港湾で、他のいかなるシェルの設備、施設、資産、船舶に対しても、決して乗船、損傷、妨害、妨害を試みないことに同意すれば、賠償額は140万㌦で和解する」と条件闘争の構えも示しているという。

 これに対して、グリーンピース側は、1月のFPSOへの抗議行動は、シェルが2022年度の決算発表で、税引き前利益として過去最高の648億㌦の計上を決定する前に、「気候変動への賠償」を支払うべきだとして抗議行動を実施したと説明している。

FPSOに海上で接岸してロープにぶら下がって乗り込む
FPSOに海上で接岸し、荒れる海を渡って、ロープにぶら下がり乗り込む

 

 シェルがグリーンピースの活動停止を見返りに、請求額の減額を条件として示したことについて、グリーンピース側は「シェルが気候を破壊することをやめることに同意し、さらに、シェルのすべての活動において、2030年までに2019年比で45%の排出量削減を求めるオランダの裁判所命令を遵守するならば、このような抗議活動の禁止に同意するだろう」と、シェル側の確約を求める要求を出し、対立している。

 

 環境NGO側は、シェルの経営姿勢が、現在のワエル・サワン新CEOになってから、低炭素化対策よりも、より儲かる化石燃料に重点を移していると批判している。一方、シェル側は、今後の10年間で、英国のエネルギーシステムに250億ポンドを投資する計画を持っており、そのうち75%は低炭素・脱炭素技術向けだと、グリーンピースの主張に反論している。

 

 グリーンピース英国の共同エグゼクティブ・ディレクターであるアリーバ・ハミッド氏は、「シェルCEOのサワン氏は、グリーン政策を放棄し、自然エネルギー部門の元同僚をクビにし、化石燃料からの撤退は “危険 “だと主張し、世界をガス灯で照らしている。そして今、彼はグリーンピースのキャンペーン能力を潰そうとしている。そうすることで、気候正義と損失と損害の支払いを求める正当な要求を黙らせようとしている」と、シェルとの全面対抗の構えを見せている。

 

 シェルとグリーンピースの「抗議するもの」vs「抗議されるもの」の争いは、これまでも何度も展開されている。たとえば、2019年、シェルは、シェトランド島沖のブレント油田がグリーンピースの抗議行動を受けた後、環境活動家が北海上のシェルの無人設備から500m以内に近づけないようにするという裁判所命令を勝ち取った。

 

 一方、グリーンピース側は、現在、英アバディーン沖でのシェルのガス開発プロジェクト「ジャックドー・プロジェクト」に承認を与えた英国政府に対して、承認取り消しの法的措置を講じる等の動きを展開している。

 

 またグリーンピースは2021年5月、同じ環境NGOの「地球の友」オランダ支部等と共同原告となり、シェルのエネルギー移行計画の見直しをオランダの裁判所に訴え、勝訴している(現在、シェルが控訴中)。同訴訟の一審での裁判長は、シェルのエネルギー移行計画について「具体的ではなく、条件だらけである」と原告勝訴とした理由を判決で説明している。

https://www.greenpeace.org.uk/news/shell-suing-greenpeace-legal-fund/